【『思考実験』一覧】怖い9例&面白い10例を超厳選【クイズ形式でわかるパラドックスの世界】

空中ブランコ

思考実験』の一覧です。

なお、このページでは乱雑になることを避けるため、各思考実験はクイズ形式で簡単にご紹介することに留めています。

そのため、問題の答えなどの詳細は各ページのリンクからご覧下さいませ。

また言うまでもなく、選定した思考実験やジャンル分けについては、当サイトの運営者である自分の独断と偏見によるものです。

以上のことはご承知おき下さいませ。

このページでわかること
  1. 【全19例】思考実験一覧
  2. 参考文献

YouTubeチャンネル

思考実験一覧【怖い思考実験ベスト9】

まずは怖い要素がある思考実験の一覧です。

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<1>トロッコ問題

トロッコ問題

トロッコ問題』は、『倫理が問われる思考実験』としてとても有名です。

1967年にイギリスの哲学者であり、倫理学者でもあったフィリッパ・フットが提示しました。

[問題文]

列車が猛スピードで突進してきた。

ブレーキが故障しており、明らかに異常なスピードだ。

 

その列車の進行方向には、線路で作業をしていた作業員5人の姿がある。

 

作業員たちは全員が線路に拘束、身動きは一切とれない。

そのため、このままだと列車との激突は避けられず、その作業員たちは5人全員が”確実に”命を落とす。

 

ところが、線路脇にいた”あなた”の目の前には、線路を切り替えられるレバーがある。

 

レバーを動かせば、列車が走る線路は切り替わり、作業員5人の命は助かる。

しかし、その切り替わった線路の先には、別の作業員1人の姿があった。

 

つまりレバーを動かすと、作業員5人全員が確実に助かる代わりに、別の作業員1人が”確実に”命を落とす。

その別の作業員1人も他の作業員と同様、線路に拘束され、身動きはとれない。

 

「あなたはレバーを動かすだろうか?それとも動かさないだろうか?」

分岐した線路 【『トロッコ問題』の問題文】「どっちが多いか?」の答え【85%以上の人は〇〇を選ぶ】

<2>トロッコ問題[大男のケース]

トロッコ問題(大男のケース)

トロッコ問題(大男のケース)』は、『トロッコ問題に類似する思考実験』です。

トロッコ問題は現在までに様々なシナリオやバリエーションが派生しており、この大男のケースはその中でも有名な類似問題の一つと位置付けられています。

1問目でご紹介したトロッコ問題とセットで考えてみると、より自分の倫理観や価値観などが浮き彫りになるかもしれません。

[問題文]

列車が猛スピードで突進してきた。

ブレーキが故障しており、明らかに異常なスピードだ。

 

その列車の進行方向には、線路で作業をしていた作業員5人の姿がある。

 

作業員たちは全員が線路に拘束、身動きは一切とれない。

そのため、このままだと列車との激突は避けられず、その作業員たちは5人全員が”確実に”命を落とす。

 

ところが、線路上の橋の上にいた”あなた”の目の前には、一人の大柄な男がいる。

 

もしその大柄な男が橋から線路に落ちれば、男は線路を走る列車と正面から激突し、作業員5人全員の命は助かる。

しかし、そうなれば、その大柄の男は”確実に”命を落とす。

 

「あなたはその大柄な男を線路に突き落とすだろうか?」

「また1問目のトロッコ問題の回答結果と比較して、あなたの選択は変わっただろうか?もし変わったのならそれはなぜだろう?」

分岐した線路 【『トロッコ問題』の問題文】「どっちが多いか?」の答え【85%以上の人は〇〇を選ぶ】

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<3>水槽の脳

水槽の脳』は、『“意識”が問われる思考実験』です。

アメリカの哲学者:ヒラリー・パトナムが、『理性・真理・歴史』という本の中で紹介しました。

その内容は世界的な大ヒットSF映画:『マトリックス』の構想にも使われたといいます。

[問題文]

あるとき、あなたは不慮の事故に遭う。

その影響で、あなたの身体は無残な姿に変わり果てた。

「(これは助からないだろう…)」

目撃した誰もがそう考えたという。

 

しかし、あなたの”脳”だけは、事故前の原型を奇跡的にとどめていた。

 

そこで、ある脳研究の権威は、そんなあなたを助けるべく、そのあなたの脳を自身の研究室へと持ち運ぶ。

あなたの脳は特殊な溶液に入れられ、コンピュータと電極でつながれる。

結果、あなたは意識を取り戻す。

 

あなたには事故当時の記憶はない。

しかし、それ以外の記憶はハッキリしており、あなたには喜怒哀楽もある。

感覚も正常。もし何らかの形で痛い思いをしても、あなたはその痛さを感じることができる。

つまりあなたは生前と同じような日常を送ることができている。

 

だが、それはコンピュータが見せている仮想の世界に過ぎない。

 

繰り返す通り、あなたには事故の影響で身体がない。

そのため、仮にあなたに身体があるという感覚があったとしても、それすらも仮想現実なのである。

幸か不幸か、あなたがその事実を知ることは決してない…。

疑うことすらないだろう…。

 

では、今この問題文を見ているあなたは、「自分自身が生きている世界が、この思考実験のように仮想現実ではないと言い切れるだろうか?」

水槽の脳 『水槽の脳』胡蝶の夢に通ずる思考実験【SF映画:『マトリックス』の構想にも使われた】

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<4>臓器くじ

非対称な天秤

臓器くじ』は、『正義が問われる思考実験』です。

イギリスの応用倫理学者:ジョン・ハリスが提唱しました。

なお、この思考実験は、『サバイバル・ロッタリー』とも呼ばれています。

[問題文]

あなたは遠い未来の世界で病院の医師をしている。

 

そこには、臓器提供を待つ5人の患者がいた。

患者たちは、臓器提供がなされなければ、命がない。

 

しかも、その患者たちはそれぞれが別の臓器を必要としていた。

とはいえ、あなたがいる未来の世界では、次の制度が存在している。

 

臓器提供者は完全にランダムなくじ引きにより、健全な市民から選ばれる

 

では、「この制度は許されるだろうか?」

なお、繰り返す通り、くじ引きは完全にランダムで行われる。

よって臓器提供者に選ばれるのは政治家かもしれないし、犯罪者かもしれない。

もちろん、医師であるあなたの可能性もある。

違い 【『臓器くじ』の思考実験】倫理学者:ハリスが提唱した問題【正義が問われる】

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<5>ザ・バイオリニスト

酸素マスクをつけた女性

ザ・バイオリニスト』は、『“命を助ける義務”が問われる思考実験』です。

アメリカの哲学者:ジュディス・ジャーヴィス・トムソンが、1971年に出版された本の中で提唱しました。

元々、トムソンは『中絶問題』を考えるため、この思考実験を提議しています。

[問題文]

あなたは何者かにさらわれる。

目が覚めると、ベッドに横たわっていた。

あなたの隣には、見知らぬ人も横たわっている。

 

しかもあなたは、その人と管でつながれていた。

 

そんなあなたへ、ある人が声をかける。

「隣にいる人は、世界的に有名なバイオリニストです」

「しかし、命の危機に瀕しています」

 

「あなたと管でつながれることによって、バイオリニストは奇跡的に命を保つことができているのです」

 

そしてある人は、あなたに次のようなお願いを口にする。

「9か月後に薬が完成します」

「その薬があれば、バイオリニストの病気は確実に治ることがわかっています」

「どうかそれまでの間、力を貸していただけませんか…?」

どうやら血液検査の結果から、あなた以外にその役割をつとめられる者はいないようだ。

 

「あなたにはそのバイオリニストを助ける義務はあるのだろうか?」

なお、この思考実験におけるあなたの行いなどは、すべてが無償によるものと仮定する。つまりはすべてがボランティアであるとする。

合理のジレンマ 【『トムソンのバイオリン奏者』(ザ・バイオリニスト)】「その命、助ける義務はありますか?」

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<6>スワンプマン

沼地

スワンプマン』は、『人間の同一性を問う思考実験の一つ』です。

アメリカの哲学者:ドナルド・デイビットソンが考案したとされており、デイビットソンは、自身の論文『自分自身の心を知ること』の中で、この思考実験を紹介したようです。

[問題文]

ある森の中をさまよう一人の男がいた。

男は今にも力尽きそうな中、とある沼地に辿り着く。

 

しかし、そんな男に降り注いだ突然の雷。

男は沼地に沈み、その生涯を終えることとなる…。

 

そんなとき、その男と入れ替わるような形で、沼地から別の男が姿を現す。

男の名は”スワンプマン”(沼男)。

 

どういうわけか、スワンプマンの姿はかつての男とそっくりそのまま。

まるで見分けがつかない。

しかもスワンプマンに宿る魂は、沼地に沈んだ男のものだ。

つまり男の魂はスワンプマンに乗り移っているようだった。

 

スワンプマンは、男の過去の記憶も完全な形で受け継いでいた。

今となっては、スワンプマンは沼地を抜け出し、そのかつての男であるかのように振る舞っている。

誰も彼がかつての男ではなく、スワンプマンであることには気づいていない…。

おそらくこれからも気づくことはないだろう…。

 

では、「スワンプマンは男と同一人物だといえるのだろうか?」

沼地 「『スワンプマン(沼男)』の思考実験とは?」わかりやすく答えの見分け方を解明【経験論的理論】

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<7>メアリーの部屋

絵の具

メアリーの部屋』は、『クオリア(主観的な感覚)がカギとされる思考実験』です。

[問題文]

メアリーという名の、色にまつわる専門知識を持った科学者がいた。

色について詳しかったメアリーは、赤いリンゴや空の青さなどはもちろん、それらの色の仕組みや、色を見た人の反応をはじめ、多くのことを知っていた。

 

しかし、そんなメアリーが送ってきた人生は、普通の人とはまったく違っていた。

それは、メアリーが”白と黒しか見えない世界に生きてきた”ことにある。

 

なぜなら、メアリーは生まれてからずっと、世界が白黒に見えるように加工されたゴーグルをつけて生活していたからだ。

つまりメアリーは色にまつわるあらゆる知識を持っていながら、実際に白と黒以外の色を見たことがなかったのだ。

 

そこで、そんなメアリーに、あるとき転機がやってくる。

そのゴーグルを外し、外の世界に足を踏み入れる機会が訪れたのだ。

 

やがてメアリーは、あらゆる色に満ちた世界を目にすることとなる。

 

しかし、繰り返す通り、メアリーは、既に色についてのあらゆる知識を持ち合わせている。

「そんなメアリーがはじめて目にする鮮やかな色の世界は、メアリーに新しい何かを教えてくれるのだろうか?」

女性のアート:白と黒 『メアリーの部屋』思考実験をわかりやすく【結果を左右するのはクオリアの存在?】

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<8>中国語の部屋

中国語を勉強する男性

中国語の部屋』は、一言でいうと、『「知能とは何か?」を巡る思考実験』です。

1980年にアメリカの哲学者:ジョン・サールが提唱しました。

[問題文]

あなたは、とある部屋の中に閉じ込められている。

 

その部屋の窓は一つしかない。

しかもあなたが外とやりとりできる手段は、その窓を通じて行われる書面のみだ。

 

部屋の外には中国人がおり、あなたに書面を通じて中国語で書かれた質問を何度も送ってくる。

しかし、肝心のあなたは中国語がまったく理解できない。

そのため、紙に書かれた中国語がどんな意味を持っているのか…あなたにはまったく見当もつかない。

 

ところがそんなあなたがいる部屋の中には、中国語らしき単語が一枚ごとに書かれた紙が入った箱がある。

どうやらそれらの紙を正しく組み合わせて使えば、中国語の文章がつくれそうだ。

 

さらに部屋の中には、ルールブックが置いてある。

そこには中国語の文をつくるためのルール、窓からどんな書面が送られてきたらどんな文を返せば良いかが書かれていた。

しかも幸運なことに、そのルールブックはあなたが理解できる英語で書かれている。

これなら中国語の意味がわからなくとも、部屋の外の中国人にそれらしい返事を送ることができそうだ。

 

書面によるやりとりは何度も続いた。

よってあなたは作業自体には確実に習熟していき、あなたが返事をするスピードも確実に上がっていく…。

やがて部屋の外にいる中国人は、あたかもあなたが中国語を理解しているように見えることだろう。

しかし、あなたが習熟しているのはあくまで作業。

中国語は今なお、まったく理解できていない。

 

では、「知能の有無は機能主義で判断できるだろうか?」

中国語の語録 『中国語の部屋』をわかりやすく【1980年に提唱された「知能とは?」が問われる思考実験】

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<9>囚人のジレンマ

利得行列(利得表)

囚人のジレンマ』は、『裏切りと協力のジレンマ(葛藤)の思考実験』です。

1950年に公表されてから、人の意思決定を検証する手段などでも使われてきました。

[問題文]

ここに、とある事件の共犯の疑いをかけられた囚人2人がいる。

2人は別々の場所で検察官から取調べを受けていた。

取調べをする検察官は、囚人2人が重大な事実を隠していると推測。囚人が自白することを期待していた。

 

しかし、そんな期待とは裏腹に、囚人はお互いに”黙秘”を続ける。

この状況が続けば、どちらも起訴されても懲役1年の刑にしかならない。囚人たちにとっては都合が良いからだ。

 

そこで検察官は、囚人に次のような取引きを持ちかける。

 

「もう一人の囚人が黙秘している間に自白してくれたら、黙秘を続けたもう一人だけを起訴して懲役20年にし、お前だけ不起訴にしてやる」

 

ここで囚人に生じたのは、ある種のジレンマ(葛藤)だった。

なぜなら、自白することは自分個人の利益(不起訴)を優先し、相棒に不利益(懲役20年)を被らせる裏切り行為ともいえるからだ。

 

さらに検察官からの取引内容には続きがあり、自分が自白することが必ずしも抜け駆けとなるわけでもない。

  1. 2人がそろって自白⇒2人に懲役10年
  2. 1人のみが自白⇒自白した方は不起訴、黙秘した方は懲役20年
  3. 2人がそろって黙秘⇒2人に懲役1年

このことも囚人のジレンマを助長させた。

 

しかも繰り返す通り、囚人同士は別々の場所で取調べを受けているため、お互いにコミュニケーションをとることはできない。

つまりどちらの囚人も、もう片方の囚人が黙秘をしているのかはわからない状況だ。

 

さて、「囚人2人は自白すべきだろうか?それとも黙秘を続けるべきだろうか?」

選択のジレンマ ゲーム理論『囚人のジレンマ』をわかりやすく【ゼロからわかる】

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思考実験一覧【面白い思考実験ベスト10】

続いては、面白い要素がある思考実験の一覧です。

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<1>テセウスの船

船

テセウスの船』は、『「オリジナルとは?」が問われる思考実験』です。

ローマ帝国のギリシャ人倫理学者:プルタルコスが残したギリシャの伝説が元となったとされています。

[問題文]

ここに木造でできた一艘いっそうの船がある。

船は長い年月と度重なる航海により、劣化し、修復が必要な状態だった。

そこで船は傷んだ部材を新品の部材と交換する形で修復が進められた。

修復は繰り返し、繰り返し行われ…徐々に船の修復は終わりに近づく。

 

その一方、交換した傷んだ部材は、その船への敬意から、捨てずに保管されていた。

 

船の修復は無事完了した。

人々は新しく生まれ変わったその船を見て、一同に喜びの表情を浮かべたという。

しかし、その一方、保管していた傷んだ元の部材によってのみから、もう一艘いっそうの船も復元がなされた。これも船への敬意からだ。

 

目の前にある二艘にそうの船は、形だけを見ればまったく同じ。

 

そこである人がふと疑問を口にする…。

「どちらの船が、オリジナルのテセウスの船なのだろうか?」

月明かりと船と鳥と 【『テセウスの船のパラドックス』】思考実験の答えは『現象の四原因説』の考え方と意味にある!?

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<2>チューリング・テスト

機械学習

チューリング・テスト』は、『コンピュータによって、”知能”を問う思考実験』です。

1950年にイギリスの天才数学者:アラン・チューリングが提唱しました。

なお、チューリングは第二次世界大戦中にナチス・ドイツのエニグマ暗号機の解読に多大な貢献。

またコンピュータサイエンスの父として、現在の一般的なコンピュータの数学的モデルであるチューリング・マシンを発案するなどの偉大な功績を残した人物でした。

[問題文]

壁の向こうにいる人間とコンピュータに会話をしてもらう。

そのうえで、事情をまったく知らない第三者の判定者(人間)を用意。

 

判定者には、「会話相手が人間なのか?コンピュータなのか?」を判定してもらった。

 

なお、判定者は両者に様々な質問を投げかけたうえ、その受け答えから判定する。

だが、繰り返す通り、判定者にとって、会話相手は壁の向こうにいるに過ぎない。

 

判定者は相手の姿を目で見ることは不可能。

そのため、判定者が頼りにできるのは、言語のみである。

 

しかも音声の特徴や応答速度などが判定に影響しないよう、会話には日常的な言語が使われたものの、キーボードで文字を打ち込む通信によってのみ行うという条件付きだった。

さらに会話相手の人間もコンピュータも、原則として人間と判定されるように会話をするよう指示(設定)されていた。

 

以上を条件に、提唱者のチューリングは問う。

「もし判定者が人間とコンピュータを区別できなければ、そのコンピュータには”知能がある*”と見なせるだろう…」

*少なくとも人間のような・・・・・・知能という意味

 

では、「このチューリングの問いに対し、どんな賛否が考え得るだろう?」

ロボットと人 【『チューリング・テスト』をわかりやすく】実例からわかる目的や反論、問題点【思考実験】

<3>モンティ・ホール問題

クイズマン

モンティ・ホール問題』は、『天才数学者:ポール・エルデシュらが間違えた・・・・ことでも話題となった、確率にまつわる思考実験』です。

エルデシュは歴史上、最も多くの問題を解いたとされる素数論の権威でした。

事の発端は当時アメリカのテレビ番組だった『Let’s make a deal』における、参加者に高額賞品を贈るコーナーにあります。その内容は次のようなものでした。

[問題文]

あなたの目の前にはA、B、Cの3つのドアがある。

その3つのドアの内、当たりのドアは1つだけ。

もう2つのドアはハズレだ。

 

もし当たりのドアを当てれば、あなたはそのドアを開けた先にある高額賞品(高級車)を手にすることができる。

しかし、ハズレのドアの先にはヤギが待っているだけ…。

 

あなたは当たりのドアを当てるべく、考えたうえで、ある一つのドアを選ぶ。

ところが、ここで司会者のモンティはある駆け引きを披露する。

モンティはあなたが選んだドア以外の残る2つのドアの内、あなたの目の前でハズレのドアを一つ開けてみせたのだ。ドアの先にはもちろんヤギが待っていた。この模様はあなただけでなく、番組の視聴者も目にしていた。

 

前提として、番組の司会者であるモンティ・ホールは、正解のドアがどれなのかを知っていた。

そしてさらに司会者は、あなたにこう問いかける…。

「今なら、残る一つのドアに変えても良いですよ?」

 

さて、「あなたは自分がはじめに選んだドアを変えるべきだろうか?」

なお、言うまでもなく、あなたはドアを当てることを目的としているとする。

1、2、3 「(『モンティ・ホール問題』が納得できない…おかしい…)」をわかりやすく解決する方法【邪道】

<4>ギャンブラーの誤謬

銀貨

ギャンブラーの誤謬ごびゅう』は、『主観的な経験から生まれる未来への錯覚の思考実験』です。『認知バイアス』の一種でもあります。

1913年にフランス:モナコの『モンテカルロカジノ』で実際に起こった出来事があまりにも有名です。

そのギャンブラーはこの認知バイアスに陥ったことで、一夜にして大金を失うこととなりました。

そんなギャンブラーの誤謬を思考実験形式にした内容が次の問題です。

[問題文]

あなたはこれからコイン投げの賭けをする。

そこで、既に行われていたコイン投げの様子を見てみたところ、表が9回連続して出ている最中だった。

あなたはそんな目の前の出来事を、とても珍しいことだと感じる。そこで次のように考える。

 

「(こんなことが起こる確率は約500分の1(=1/2の9乗)だ…だから、さすがに次は裏が出るだろう…)」

 

そこであなたは迷わず、次のコイン投げでは裏が出ることに賭ける。

さて、「その判断は正しいのだろうか?」

なお、この賭けには一切イカサマは使われていないものとする。

そのため、コインなどにも細工は一切ない。

ルーレット 『ギャンブラーの誤謬』ガチャ爆死がつらい人にありがち【認知バイアス】

<5>逆ギャンブラーの誤謬

サイコロ3個

逆ギャンブラーのびゅう』は、『主観的な経験から生まれる過去への錯覚の思考実験』です。

さきほどのギャンブラーの誤謬が未来への予測であったのに対し、この逆ギャンブラーの誤謬は過去への推論によるものという違いがあります。

1987年に哲学者:イアン・ハッキングが提唱しました。

これを元にした思考実験の内容が、次のような問題です。

[問題文]

あなたは行き付けの喫茶店で何時間も過ごした後、気まぐれに隣の建物へと入る。

そこでは賭けが行われていて、誰かがあなたにこう問いかける。

 

「私たちがこのサイコロによる賭けをたった今始めたばかりなのか、それとも、もう何百回も続けていたのか…どっちだと思います?」

 

どうやらこれ自体も賭けのようだ。あなたは考え、そして答える。

「うーん…自分はデタラメなタイミングで来ただけなので、今は賭けが行われていたなかで全体のちょうど真ん中あたりである可能性が高い気がしますが…ちょっとわかりませんね…」

 

そこであなたは次のような質問をした。

「ヒントをくれませんか?ちょうど今出た目はいくつだったんです?」

すると賭けをしていた人は、正直に答える。

「実は…666だったんですよ」

 

「え?」

思わずあなたは驚く。

なぜなら、サイコロ3個を振るギャンブルで、666が出る確率は1/216しかないからだ。

それもあなたがたまたま賭けの場に訪れたちょうどそのとき、その666の目が出たということになる。

 

以上のことから、あなたの考えは確信へと変わる。

「なるほど。666なんて目が1回目や2回目で出るはずはないな…だけど、何百回も振っていれば出てもいいだろう。わかった!正解は、『何百回も振り続けていた』だ!」

 

さて、「その推理は正しいのだろうか?」

もちろんこの賭けにもイカサマなどは一切使われていない。

サイコロで666の目が出たのも無論、本当のことである。

ルーレット 『ギャンブラーの誤謬』ガチャ爆死がつらい人にありがち【認知バイアス】

<6>コンドルセのパラドックス

挙手をする男の子

コンドルセのパラドックス』は、『多数決にまつわる落とし穴』です。

『多数決のパラドックス』や、『投票の逆理』とも呼ばれています。

18世紀のフランスの数学者:コンドルセ侯爵が明らかにしました。

コンドルセは次のような総当たり決戦方式を例に、その全容を明らかにしています。

[問題文]

とある三人組が旅行の計画を立てている。

 

旅行先の候補地は、『日本』、『アメリカ』、『スペイン』の3カ国。

最終的にどこへ行くかは、三人による多数決で決められることとなった。

 

まず行われたのが、『日本』と『アメリカ』による多数決だ。

そこでは日本に1票、アメリカには2票が投じられたため、アメリカが次へと駒を進めた。

次に行われたのは、勝ち上がった『アメリカ』と、『スペイン』による多数決だ。

そこでは、アメリカに1票、スペインに2票が投じられた。

 

よって以上の結果から、旅行先はスペインに決定。

 

さっそく三人は旅行会社に行き、スペイン行きの旅行プランを予約することにした。

ところが、そこで三人は、その旅行会社から、”アメリカ行きの旅行プランには空きがなくなった”とのことを告げられる。

…とはいえ、多数決によって旅行先に決まったのはスペインである。

ここで迷わずスペイン行きを予約してしまえば、三人にとっては何も問題はなかった。

 

だが、ここで三人の内の一人が、遊び半分で次の提案を持ちかけた。

「一度、スペインと日本の2カ国だけで多数決をとってみないか?」

 

提案の通り、今一度、多数決をとってみた三人。

すると驚くことに、結果は、”スペインに1票、日本に2票が投じられ、日本が多数という結果”になってしまった。

当初の多数決では最下位だったはずの日本が、逆転優勝を収めたのだ。

 

では、「なぜ、このようなことが起こったのか?」

なお、前提としてこの思考実験には、イカサマはまったく使われていない。

意見 【『コンドルセのパラドックス』の例をわかりやすく】数学者が明らかにした多数決の落とし穴

<7>シンプソンのパラドックス

シンプソンのパラドックス』は、『比較にまつわる問題』です。

統計学者:エドワード・シンプソンが提唱しました。

次のような問題になります。

[問題文]

学校Aと学校Bの、2つの異なる学校がある。

教育関係者であるあなたは、その2つの学校にいる生徒たちそれぞれに、とあるまったく同じテストを実施。

 

そして結果を性別ごとに比較したところ、男女ともに学校Aの平均点は、学校Bの平均点よりも10点高いことが明らかとなった。

 

そのため、以上のことから、あなたは論理的に次のように考える。

「(これなら全校生徒による平均点も、きっと学校Aの方が高いだろうな…)」

 

だが、実際に全校生徒の平均点を比較してみたところ、学校Bの方が学校Aよりも平均点が高くなってしまった。

つまり男女別による結果と逆転してしまったということだ。

 

「なぜ、このようなことが起こったのか?」

グラフ調査 【『シンプソンのパラドックス』をわかりやすく】事例からわかる統計学者:シンプソンの思考実験

<8>ヘンペルのカラス

カラス

ヘンペルのカラス』は、『帰納法にまつわる問題』です。

ドイツの科学哲学者:カール・ヘンペルが提唱しました。

ヘンペルは、帰納的統計モデルを研究する最中、この人間の直感とは反する事例を思いついたとされています。

それを元にした思考実験の内容が、次のような問題です。

[問題文]

あるとき、あなたは『カラスは黒い』ということを検証したいと思い立つ。

それはすなわち、『どのカラスも黒い』ということの検証に他ならない。

 

そしてその検証法には、『論理的に同値』である『対偶論法』を使うことにした。

つまりここでは、『どのカラスも黒い』を調べるため、その対偶である『黒くないものはカラスではない』を調べるということだ。

[対偶的に同値である2つのこと]

  1. 『いかなるものであれ、それがカラスであるならば、それは黒いものである』
  2. 『いかなるものであれ、それが黒くないものであるならば、それはカラスではない』

よってすべてのカラスが黒いことをこの対偶論法で検証するのであれば、何もカラスを調べる必要はない。

カラスを調べずして、「すべてのカラスは黒いのか?」の答えを確かめられるということだ。

つまり黒くないものを片っ端から確かめることができさえすれば、それで事足りてしまう。

 

そこでまずあなたは、自分にとって身近な”黒くないもの”から検証を始めることにした。

たとえば、自分の目の前にある白色のスマートフォンを見て、「うん。これはカラスではないな」と確認したり、雨の日に使っている青色の傘を見て、「うん。あれはカラスではないな」などと確認していく…といった具合にだ。

 

そうすれば、やがてはあなたが元来検証したかった、『どのカラスも黒い』を明らかにすることができる。

さて、以上の検証法は、論理的には正しい。

だが、「この一連の検証法には、問題点や注意点が隠れている。それは何だろうか?」

白と黒とカラスと 『ヘンペルのカラス』を簡単にわかりやすく【帰納法にまつわる思考実験】

<9>アキレスと亀

うさぎとかめ

アキレスと亀』は、『『ゼノンのパラドックス』の一つとして有名な思考実験』です。

かつて哲学者ゼノンが提示したことから、その名がついています。

また後に哲学者:アリストテレスが自著:『自然学』の中で数多くの思考実験を紹介しましたが、それらの多くは元々、ゼノンから着想を得ていたといいます。

[問題文]

ここに”アキレス”という名前の、足の速い男がいる。

あるとき、そんなアキレスは、一匹の亀と競走をすることになった。

 

とはいえ、アキレスの方が亀より足が速いことは明らかだ。

 

このまま勝負をすれば、アキレスが勝つことは目に見えている。

そこで亀にはスタート地点をアキレスよりも前にするハンデが与えられた。

 

しかし、それでも亀に与えられたハンデはとても小さい。

結果に影響を与えるレベルとはいえなかった。

 

しかし、アキレスは亀に惨敗することになる…。

「なぜ、アキレスは負けてしまったのだろう…?」

寝ている亀 「『アキレスと亀』はどこがおかしいのか?」わかりやすくその屁理屈を2つにまとめました【思考実験】

<10>クレバーハンス

サラブレッド

クレバーハンス』は、『実話が元になった思考実験』です。

かつてドイツで騒動となった賢い馬:ハンスの謎が元となっています。

[問題文]

かつてハンスという名の賢い馬の存在が評判を生んだ。

 

ハンスは訓練により、加減乗除の計算や分数と小数の変換、ドイツ語の理解などができるようになったらしい。

実際に多くの聴衆の目の前で、それらの問題に正答してみせていた。

当時の教育者の見解によると、ハンスには人間の13、14歳に相当する能力があると推察されていたようだ。

 

とはいえ、ハンスは馬である。

人の言葉を話すことはできない。

そこで問題への解答には、右前足で地面を蹴る形で行われていた。

つまり答えが10であるなら、ハンスは自身の右前足で10回地面を叩くことで解答していたのだ。

 

しかし、ハンスに対しては疑惑の目も向けられていた。

そこで動物学者:シリングスらの立会いの下、実験によってハンスの芸当が検証される。

ところがどれだけ検証しても、ハンスに何らかのトリックが使われた形跡は出てこなかった。

結果としてハンスにトリックが使われている可能性は除外された。

 

この結果も影響し、益々ハンスの評判は大きくなっていく。

後に多くの学者までもが、賢い馬:ハンスの存在に太鼓判を押すようになった。

 

…しかし、実はハンスの能力はすべてがデタラメだった。

ハンスには計算をする能力も、ドイツ語を理解する能力も一切備わっていなかったのだ。

 

では、「なぜハンスは問題に正解し続けることができていたのか?」

繰り返す通り、ハンスには手品のようなトリックは一切使われていない。

馬 『クレバーハンス効果』賢い馬:ハンスには人間の13、14歳レベルの知能があった?【心理学史】

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参考文献

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