【『テセウスの船のパラドックス』】思考実験の答えは『現象の四原因説』の考え方と意味にある!?

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思考実験:『テセウスの船のパラドックス』についてです。

参考文献を元に、なるべく誰にでもわかるよう、まとめてみました。

考えを深める一助としていただければ、幸いに思います。

このページでわかること
  1. 問題内容
  2. 2つの回答例と考察
  3. 答えを深めるカギ:『現象の四原因説』
  4. 哲学者たちの考え
  5. 参考文献

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『テセウスの船のパラドックス』思考実験の答え【考え方と意味】

では、まずは『テセウスの船のパラドックス』の概要と問題について、ご紹介させていただきます。

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『オリジナルとは何か?』が問われる問題

『テセウスの船のパラドックス』とは、一言でいうと、『「オリジナルとは?」が問われる思考実験』です。

ローマ帝国のギリシャ人倫理学者:プルタルコスが残したギリシャの伝説が元となっています。

この話は、ローマ帝国のギリシア人倫理学者、作家のプルタルコスの紹介したギリシアの伝説が元となっている。

テセウスは、ミノタウロス退治などで知られる英雄だ。

(『よくわかる思考実験』9ページ より)

問題文とその問いは、次のようなものです。

ーーーーー

[問題文]

ここに、木造でできた一艘いっそうの船があります。

船

その船は長い年月と度重なる航海により、劣化し、修復が必要な状態です。

そこで船は傷んだ部材を新品の部材と交換する形で修復が進められていきました。

修復は船大工によって繰り返し、繰り返し行われ…徐々に船の修復は終わりに近づいていきます。

トンカチ

なお、交換した傷んだ部材は、その船への敬意から、捨てずに保管されていました。

資材

船の修復は無事完了しました。

人々は新しく生まれ変わったその船を見て、一同に喜びの表情を浮かべたといいます。

しかし、その一方で、保管していた傷んだ元の部材によってのみから、もう一艘いっそうの船も復元がなされました。これも船への敬意からです。

するとどうでしょう。

目の前にある二艘にそうの船は、形だけを見ればまったく同じです。

船

そこである一人がその目の前の二艘にそうの船を見て、ふと疑問を口にします。

その疑問により、修復された船を見て喜びの表情を浮かべていた人々は、途端に困惑のそれへと変わることとなりました…。

どちらの船が、オリジナルのテセウスの船なのだろうか?

この疑問が『テセウスの船のパラドックス』です。

「元の部材がすべて取り換えられたこの船は、果たしてテセウスの船といえるのでしょうか…?」

ーーーーー

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『テセウスの船のパラドックス』思考実験の答えの一例【連続性の基準の考え方で変わる】

とはいえ、前提として、この『テセウスの船のパラドックス』に絶対の答えは存在しません。

この思考実験は、この船が「テセウスの船である」という感覚と「もはやテセウスの船ではない」という感覚を対照し、同一性を判断するときに基準となる原理とはどういうものなのかを考えるためのものです。

(『思考実験 科学が生まれるとき』81ページ より)

人それぞれに立場や価値観があり、同じ人でも状況が違えば判断は変わりますから、どこに同一性の基準を見いだすかを判断するのは難しいのです。
(『思考実験 科学が生まれるとき』87ページ より)

アメリカの哲学者ジョン・サール(1932~)は、同一性をどのように判断するかは、結局、私たち次第であるといっています。

(『思考実験 科学が生まれるとき』89ページ より)

よってこの思考実験は絶対的な答えが存在しないため、各々が絶えず考察を深めていく姿勢が大切となります。

そのため、ここからの情報はあくまで一つの参考にしか過ぎませんが、その答えを考えるための例をご紹介できればと思います。

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<回答1>「新品の部材に修復された船が本物である」という考え

まずは「新品の部材に修復された船が本物である」という考えです。

船としての”機能”を基準にした見方

この回答をした方は、もしかしたらテセウスの船の、船としての”機能”を基準に見ている側面があるのかもしれません。

なぜなら、船が修復される前後を比較したとき、修復された後の船にのみ引き継がれていたことの一つに、船本来の機能があるという見方ができるからです。

ーーーーー

(例)アイドルグループを変わらずに応援

応援する男性

なお、この考えはアイドルグループやスポーツチームなどに置き換えても説明ができます。

たとえば、自分が応援しているチームから、特に好きだったメンバーがいなくなってしまった場合などです。

とはいえ、そんな状況になっても変わらずにそのチームを応援し続けられる方は、おそらくはそのメンバー以上にチームそのものに対し、何らかの(機能的な)価値を見出していると考察できるということです。

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<回答2>「傷んだ部材で復元された船が本物である」という考え

続いては、「傷んだ部材で復元された船が本物である」という考えです。

船を構成する”部材”を基準にした見方

この回答をした方は、もしかしたらテセウスの船の、船を構成する”部材”を基準に見ている側面があるのかもしれません。

その理由は、これも船が修復される前後を比較したとき、修復される前の船にのみ残っていたことの一つに、元々の船を構成していた傷んだ部材の存在があるという見方ができるためです。

ーーーーー

(例)アイドルグループの応援をやめる

応援する女性

さきほどもご紹介しましたが、この考えもアイドルグループやスポーツチームなどに置き換えても説明ができます。

たとえば、自分が応援しているチームから、特に好きだったメンバーがいなくなってしまった場合などです。

そんな状況になったとき、そのチームの応援をやめる方は、おそらくそのチームそのもの以上に、ある特定のメンバーに魅力を感じていたのだと考察できるということです。

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『テセウスの船のパラドックス』思考実験の答えを解くカギ【大哲学者の知恵にある】

繰り返す通り、『テセウスの船のパラドックス』に絶対の答えは存在しません。

「物事をどの側面から見たか?」などをはじめとした条件によって、その答えは変わります。

とはいえ、あえてそのことを踏まえたうえでなら、さらに具体的な答えに辿り着くためのヒントはあります。

ここではそのことをご紹介させていただきます。

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万学の祖:アリストテレスの『現象の四原因説』

古代ギリシャの大哲学者で万学の祖と呼ばれたアリストテレスは、『テセウスの船のパラドックス』にも応用できる、ある考えを提唱していました。

それが『現象の四原因説』といって、『物事を生み出す原因や根拠のこと』です。

アリストテレスがあげた物事を生みだす4つの原因や根拠。

(『倫理用語集』50ページ 4つの原因 より)

まずこの考えは次の4つの要素から成り立ちます。

現象の四原因説
  1. 質料因…物事の素材
  2. 形相因…物事が何なのかを決める形や定義
  3. 始動因…物事の運動変化を引き起こすもの
  4. 目的因…物事が目指す目的

この考えは、次にあるように”家”を例にするとわかりやすいです。

家を例にとると、石や木材などの材料が質料因、家の構造や骨組みが形相因、建築家の働きが始動因、住むことが目的因である。

(『倫理用語集』50ページ 4つの原因 より)

つまり以上4つのどの立場をとるかによって、その答えが決まってくるという考えです。

そしてこの考えは、『テセウスの船のパラドックス』にも次のようにそのまま反映させることができます。

<1>質料因

まず一つ目の『質料因』は、『物事の素材』でした。

これは家にたとえると石や木材でしたので、テセウスの船でいえば、『部材』のことを指します。

資材

そして『テセウスの船のパラドックス』では、元々の傷んだ部材は新品の部材に交換されていました。

よってこの『質料因からテセウスの船を見た場合、テセウスの船は同じではない』という答えになります。

逆にいえば、テセウスの船を同じではないと考えた方は、この質料因に重きを置いている側面があったのかもしれません。

<2>形相因

二つ目の『刑相因』は、『物事が何なのかを決める形や定義』でした。

家にたとえると、家の構造や骨組みでしたので、テセウスの船でいうならば、その一つは『形状』であるといえそうです。

船

その意味だと『テセウスの船のパラドックス』では、船の形状自体は変化していません。そっくりそのままでした。

そのため、この『刑相因からテセウスの船を見た場合には、テセウスの船は同じである』といえるはず。

よってテセウスの船を同じだと考えた方は、この形相因に重きを置いている側面があった可能性がある…といえそうです。

<3>始動因

三つ目の『始動因』は、『物事の運動変化を引き起こすもの』になります。

これは家にたとえると、建築家の働きでした。よってテセウスの船でいうなら、船の修復を行った『船大工』の存在がこれに当たりそうです。

トンカチ

『テセウスの船のパラドックス』では、船大工が何らかの変化をしたとする描写は特にありませんでした。

とはいえ、この思考実験で問われているのは、あくまで「テセウスの船が同じであるかどうか?」です。

船大工が変化したかどうかはこの思考実験の本筋とはズレているため、この『始動因だけからテセウスの船が同じであるかどうかを結論付けることは難しい』気がします。

そのため、始動因はこの思考実験を考えるうえでは、答えを決定付けるための要因としては弱そうです。

<4>目的因

最後四つ目の『目的因』は、『物事が目指す目的』です。

家にたとえると、当然、住むことになります。その意味だとテセウスの船は『乗ること、使うこと』が目的です。

船

テセウスの船のパラドックス』では、船の用途は変化していません。

よってこの『目的因からテセウスの船を見た場合、テセウスの船は同じ』です。

テセウスの船を同じだと考えた方は、この目的因に重きを置いている側面があった可能性もあるのかもしれません。

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考察:『現象の四原因説』が浮き彫りにすること

以上のことを表にしてまとめると、以下のようになります。

[テセウスの船は同じ?]

同じである 同じではない
質料因 X
形相因 X
始動因
目的因 X

つまりアリストテレスの『現象の四原因説』を参考にすれば、「自分はなぜテセウスの船を同じ(または違う)と考えたのか?」の一端が垣間見えるということです。

このことは、『その人が物事に対して何に重きを置いているのか?』などの、その人自身の『価値観』にも通ずることのように自分は考察します。

もちろんこのことはあくまで自分の考察に過ぎません。

とはいえ、『テセウスの船のパラドックス』を考える意義の一つは、もしかしたらこのことにもあるようにも思いました。

考え事をする男性

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『テセウスの船のパラドックス』思考実験の答えのヒントとなり得る2人の哲学者たちの考え

最後は補足となりますが、『テセウスの船』を考えるうえで、参考になりそうな哲学者たちの考えをまとめました。

ご自身の考えを深めるための一助としていただければと思います。

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哲学者:パルメニデスの『存在一元論』

哲学者:パルメニデスは、世界が不変、不動の存在であるという『存在一元論』を提唱しました。

「有るものはあり、有らぬものはあらぬ」①といい、世界は永遠不滅の一体的な存在であるという存在一元論①を説いた。

「有るもの」のみがあるゆえに、「有らぬもの」である無や空虚はありえず、それらを前提とする生成消滅や運動も否定される。

「有るもの」である世界は、永遠・不変・不動・分割不可能な、始めも終わりもない1つの実在である。

(『倫理用語集』40ページ パルメニデス より)

なお、同じく哲学者のゼノンはパルメニデスの弟子として知られており、その考えは思考実験:『アキレスと亀』においても反映されています。

エレア学派を開いたパルメニデスの弟子で、存在は無から生まれることも、無へと滅びることもない、不生不滅の永遠であるというパルメニデスの説を受け継いだ。

(『倫理用語集』40ページ ゼノン より)

寝ている亀 「『アキレスと亀』はどこがおかしいのか?」わかりやすくその屁理屈を2つにまとめました【思考実験】

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哲学者:ヘラクレイトスの『万物は流転する』

哲学者:ヘラクレイトスは、『万物はてんする*』と言い、あらゆる物事は絶えず変化し続けるとの考えを持っていました。

(前略)「同じ河に二度入ることはできない」「太陽は日々に新しい」といい、世界の実相を絶えず変化する流動としてとらえた。

(『倫理用語集』40ページ ヘラクレイトス より)

*『パンタ・レイ』とも呼ばれる

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仏教の『諸行無常』、老荘思想の『無為自然』

なお、この考えは仏教でいう『諸行無常』や老荘思想の『無為自然』、鴨長明の『方丈記』の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と近い印象を受けます。

東洋思想の一部とも親和性があるのかもしれません。

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『テセウスの船のパラドックス』思考実験の答え【考え方と意味】まとめ

『テセウスの船のパラドックス』に、絶対の答えは存在しません。

人によって様々な考えがあるでしょうし、解釈の仕方はここでご紹介させていただいた以外にも様々な考えがあることだろうと思います。

どういった立場で、どういった角度からこの問題を見たか?」によって変わってくるはずです。

とはいえ、そのことにこの思考実験の奥深さがあるのかもしれません。

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参考文献

このページをつくるにあたり、大いに参考にさせていただきました。

ありがとうございました。

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