【『思考実験』一覧】怖い9例&面白い10例を超厳選【クイズ形式でわかるパラドックスの世界】
思考実験:『チューリング・テスト』をご紹介させていただきました。
一つの参考にして下さいませ。
- 目的や内容
- 賛否の事例
- 考察
- 参考文献
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『チューリング・テスト』をわかりやすく
では、まずは『チューリング・テスト』の概要をご紹介させていただきます。
数学者:アラン・チューリングが、”知能”を問うことを目的に提唱
まず『チューリング・テスト』とは、一言でいうと、『コンピュータによって、”知能”を問う思考実験』になります。
1950年に、イギリスの数学者:アラン・チューリングが提唱。
チューリングは次の提案を元にして、テストのアイデアを提唱しました。
チューリング
その後、『チューリング・テスト』は世界的に広がりを見せ、『ローブナー賞』という競技が行われるまでになりました。
なお、この思考実験には、『中国語の部屋』や『テセウスの船』など、いくつか類似した問題があるとの指摘もあります。
チューリング・テストに類似した思考実験に、アメリカの哲学者ジョン・サールが1980年に提出した、「中国語の部屋」があります。
(『思考実験 科学が生まれるとき』178ページ より)
(前略)どのような状況であれば知能を認めてよいのかを考えるもので、その意味では「同一性」を問題にする「テセウスの船」に似ています。
(『思考実験 科学が生まれるとき』177ページ より)
またテストのみならず、提唱者のチューリングは天才数学者として偉大な功績を残した人物でもありました。
たとえば、第二次世界大戦中にはナチス・ドイツのエニグマ暗号機の解読に多大な貢献。
その模様は『イミテーション・ゲーム』という映画にもなっています。
さらにチューリングはコンピュータサイエンスの父としての顔もあります。
なかでも現在の一般的なコンピュータの数学的モデルであるチューリング・マシンを発案したことはとても有名です。
そしてそんなチューリングが提案した『チューリング・テスト』は、次のような問題です。
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「壁の向こうで人とコンピュータが会話
壁の向こうに人間とコンピュータを置き、会話をしてもらいます。
事情を知らない第三者の判定者を用意
そしてそのうえで、「どちらが人間で、どちらがコンピュータなのか?」をまったく知らない第三者の判定者を準備。
判定者は会話相手がどちらなのか判定
その判定者には、「会話相手が人間なのか?コンピュータなのか?」を判定してもらいました。
なお、判定者は両者に様々な質問を投げかけたうえ、その受け答えから判定しました。
だが、相手の姿を見ることはできない
しかし、繰り返す通り、判定者の会話相手は壁の向こうにいるに過ぎません。
そのため、判定者は相手の姿を目で見ることは不可能。
つまり判定の基準は言語のみが頼り
よって判定者が頼りにできるのは、言語のみでした。
会話方法はキーボードによる文字入力のみ
とはいえ、その会話は日常的な言語で行われたものの、キーボードで文字を打ち込む通信によってのみ行うという条件付き。
理由は音声の特徴や応答速度などが判定に影響しないためでした。
会話相手は人間と判定されるよう設定」
また会話をする人間もコンピュータも、原則として人間と判定されるよう会話をするように指示(設定)されていました。
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Q:判定者が区別できなければ、コンピュータには”知能がある”と言えるのでは?
そして以上のことから提唱者のチューリングは問います。
チューリング
*少なくとも人間のような知能という意味
以上が、『チューリング・テスト』の思考実験です。
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注:なお、オリジナル版の『チューリング・テスト』は、女性のふりをする男性と、本物の女性の区別をするゲームでした。
つまり男女どちらかの役をコンピュータにさせるというものでしたが、現在では直接、コンピュータに会話させるこの設定が一般的です。
よってここでもその設定をご紹介させていただいています。ご承知おき下さいませ。
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『チューリング・テスト』への賛否
『チューリング・テスト』が提唱されたのは、AI(人工知能)*研究黎明期のことでした。
*便宜上、以下より『AI』と表記させていただきます
とはいえ、提唱者が数学者であったことを踏まえると、
「(天才数学者らしからぬ方法だな…)」
などと思われた方もいるかもしれません。
(少なくとも自分はそう思いました)
ですが、この思考実験は発案から半世紀以上が経った現在においても、賛否が入り交じり、未だに明確な答えは出ていません。
そのため、ここからは参考文献を元にして、このテストへの賛否の例をご紹介させていただくこととします。
[賛成派の例]「人間も振る舞いによって知能を判断している」
まずは「『チューリング・テスト』に合格すれば、それは知能があると見なせるだろう」という賛成意見についてです。
このような意見を支持する例としては、たとえば、
賛成派の意見
などといった意見があります。
これはその通りです。
実際に人は相手の振る舞い(言動など)によって、その相手の頭の良し悪しのようなものを判断してしまうことがあります。
身に覚えがある方もいるかもしれません。
そしてコンピュータサイエンスの分野には、そのことが垣間見える例が存在しています。
その代表例が、『ELIZA』との対話です。
会話をするプログラム:『ELIZA』
『ELIZA』とは、『会話をするエキスパート・システムのコンピュータプログラム』です。
1966年にアメリカの情報工学者:ワイゼンバウムが開発。
そしてこれを改良した『DOCTOR』というプログラムが、『心理カウンセラーが精神病患者と対話をする様子を真似たプログラム』です。
実際の会話の様子は、次のようなものです。
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患者(人間)
DOCTOR
患者(人間)
DOCTOR
患者(人間)
DOCTOR
患者(人間)
DOCTOR
ーーーーー
見ての通り、『DOCTOR』は患者の言葉をオウム返ししたり、あいづちを打っているに過ぎません。
ですが、少なくとも初期の実験においては、患者の多くが『DOCTOR』のことを本物の人間だと思い込み、実際に症状が軽減した例もあったといいます。
ちなみにこのような心理現象は、『ELIZA効果』と呼ばれています。
【心理現象一覧】面白い有名な心理現象の名前と意味大全【心理学を大学で勉強した自分が徹底調査】
とはいえ、以上のことは、人には言葉による振る舞いのみから相手が人間であると判断している側面があることを示唆しています。
なお、このプログラムは、入力と照合するためのパターンをあらかじめいくつか用意し、そのパターンごとに特定の出力を行う『パターンマッチ』というアルゴリズムを使っています。
たとえば、「私の名前は〇〇です」という入力をされたら、「〇〇さん、ごきげんいかが?」などと出力しているということです。
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ちなみに余談ながら、後にこの『ELIZA』を開発したワイゼンバウムは、
「より複雑な方法で言語理解を行うAIプログラムも、結局は『ELIZA』と同じなのでは?」
と考え、皮肉にもAI研究を批判するようになったといいます。
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世界ではじめてテストに合格:『ユージーン・グーツマンくん』
さらに2014年には、はじめて『チューリング・テスト』に合格したAIが現れたとして、世界的に大きな話題を呼びました。
それが『ユージーン・グーツマンくん*』という『“ウクライナ在住の13歳の少年”を設定したプログラム』です。
*便宜上、以下より『グーツマンくん』と表記させていただきます
アラン・チューリングの死後60年を節目として行われたテストにおいて、グーツマンくんは審査員である人間の約33%を人間だと判定させることに成功。
グーツマンくんのような例は、
賛成派の意見
というさきほどご紹介した『チューリング・テスト』への賛成派の意見を強力に後押しする一例となる可能性を秘めています。
またそうでなくともこの例には、人には、
「(自分の意図は伝わっているだろう…)」
といったコミュニケーションをするうえでの暗黙の了解があることを浮き彫りにしたところもある気がしています。
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ちなみに実際にグーツマンくんが挑戦したのは主に5つのプログラムでした。
次の条件のもと、テストでは審査員である人間の30%以上を欺けば合格とされていました。
[テストの概要]
・画面上でのテキストのチャットのみ
・審査員はジャンルに縛られることなく自由に質問可能
・5分の間に判定
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しかし、グーツマンくんに対しては、否定的な見方も存在しています。
それは“演出の有無”です。
たとえば、ウクライナ在住という設定。
英語ではない国をあえて選んでいるという指摘です。
さらに13歳という成熟していない年代の設定も、受け答えが多少たどたどしくても、それが許されてしまう側面がありました。
つまりグーツマンくんの答えのたどたどしさが、「コンピュータだからなのか?少年だからなのか?」ということが判断しづらいのではないかとの指摘があったということです。
それにより、判定者がグーツマンくんを大目に見てしまう可能性がありました。
とはいえ、これらのことが実際にどの程度テスト結果に影響したのかはわかりません。
しかし、個人的に穿った見方をしてしまえば、「グーツマンくんはテストに合格するため、判定者である人間の盲点をうまく突こうとしてつくられたのでは?」と見れなくもない気はしています。
開発者の真の意図は不明ですが。
[反論や問題点の例]「人間と同じ理解や考えをしているとは言い切れない」
一方で「『チューリング・テスト』に合格しても、それは知能があるとは見なせないだろう」という反対意見があることも事実です。
そしてそのような反対意見を支持する例としては、
反対派の意見
といった意見などがあります。
これもその通りですが、とはいえ、“考える”や”理解をする”といったことを定義することは難しい問題です。
ですが、この思考実験がコンピュータとのテキストを通じた振る舞い(言動)のみで知能を判断していることは事実。
これは1950年代に提唱された『機能主義』という次のような主義主張に通じています。
心を持つ、知能を持つということは、脳のような一種の生体器官を持つことではなく、何かを伝達したり、理解したり、判断したりという一連の機能を果たせるということであるという主張だ。
(『よくわかる思考実験』130ページ より)
なお、哲学者:伊藤邦武さんは、この機能主義について、次のように解説なされています。
(前略)人間の心は端的に脳の機能によって理解されるものであり、その機能はコンピュータのソフトウェアやプログラムとその具体的な運用になぞらえて解釈される。
人間の心にかんするこのような哲学的立場は「機能主義」と呼ばれるが、この機能主義の哲学は、脳科学やコンピュータ科学と手をたずさえて、認知科学という学問領域を作りあげている。
(『童話学がわかる』76ページ より)
『チューリング・テスト』は、会話の相手を外からの振る舞いで判断しているに過ぎません。
よってそれ以上でもそれ以下でもないため、この手の反論が出るのは当然といえば当然だともいえそうです。
【『チューリング・テスト』をわかりやすく】実例からわかる目的や反論、問題点のまとめ
『チューリング・テスト』は今から半世紀以上前に提唱された思考実験です。
その内容は、振る舞いによって知能を判断するというシンプルなものでした。
しかし、現状では人間の知能については未解明なことが多いためか、現在でもこの思考実験への明確な解答は出ていません。
(個人的にはあまり考える意味があるとは思えませんが…)
とはいえ、『振る舞いによってのみ知能を判断する』という営みは、私たち人間にとって、少なからず身に覚えがあることではないでしょうか。
皆さんはこの思考実験について、どう考えるでしょう。
参考文献
このページをつくるにあたり、大いに参考にさせていただきました。
ありがとうございました。
・Turing, A. M.(1950)”Computing machinery and intelligence,” Mind, Vol. 59, Issue 236, 433-460.
・Weizenbaum, J.(1966)”ELIZAーA computer program for the study of natural language communication between man and machine,” Communications of the Association for Computing Machinery, Vol. 9, No. 1, 36-45.