【『思考実験』一覧】怖い9例&面白い10例を超厳選【クイズ形式でわかるパラドックスの世界】
思考実験:『アキレスの亀』についてです。
参考文献を元にして、そのパラドックスのカラクリをまとめてみました。
- 『アキレスと亀』の前提と問題文
- 2つのカラクリ
- 参考文献
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「『アキレスと亀』はどこがおかしいのか?」わかりやすくその屁理屈をまとめました【思考実験】
まずは前提となる内容と問題文です。
『ゼノンのパラドックス』の一つ
まず『アキレスと亀』は、『ゼノンのパラドックス』の一つとされています。
かつて哲学者:ゼノンが提示したことからその名が付けられました。
南イタリア、エレア出身の古代ギリシアの哲学者で、ストア派のゼノンとは別人物。
エレア学派を開いたパルメニデスの弟子で、存在は無から生まれることも、無へと滅びることもない、不生不滅の永遠であるというパルメニデスの説を受け継いだ。
存在は永遠で不動であるという立場から、物体の運動を否定し、先をゆっくりと歩く亀を、足の速いアキレスは永遠に追いぬくことができないというアキレスと亀②や、矢は前に進むことができないという飛ぶ矢のパラドックス(逆説)などを説き、運動が可能であるという現実を、逆説的な論理によって否定した。
(『倫理用語集』40ページ ゼノン より)
なお、後に哲学者:アリストテレスは自著:『自然学』の中で数多くの思考実験を紹介しましたが、それらの多くは元々、ゼノンから着想を得ていたといいます。
では、そんなゼノンが提示したアキレスと亀の問題は次の通りです。
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[問題文]
ここに、“アキレス”という名前の、足の速い男がいます。
あるとき、そんなアキレスは、一匹の亀と競走をすることになりました。
とはいえ、言うまでもなく、アキレスの方が亀より足が速いことは明らかです。
そのため、このまま勝負をすれば、アキレスが勝つことは目に見えていました。
そこで亀にはスタート地点をアキレスよりも前にするハンデが与えられました。
といっても、亀に与えられたハンデはとても小さいものです。
結果に影響を与えるレベルのハンデではありませんでした。
しかし、アキレスは亀に惨敗することとなります…。
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以上がアキレスと亀のシナリオです。
アキレスと亀のカラクリ「なぜ、アキレスは負けたのか?」【2つの解釈】
普通に考えれば、亀よりも足が速いアキレスが勝つだろうと思えそうなものです。
では、「なぜ、アキレスは亀に負けてしまったのでしょうか?」
ここでは参考文献を元にした2つの考え方をご紹介させていただきました。
<1>”アキレスが亀に追いつくまで”を描写しただけのこと
まず一つ目は、この思考実験は、『“アキレスが亀に追いつくまで”を描写したに過ぎない』という考察です。
たとえば、アキレスのスタート地点をA、亀のスタート地点をBとします。
亀にはスタート地点をアキレスよりも前にするハンデが与えられていたため、当然地点Bは地点Aよりも前方です。
とはいえ、足が速いのはアキレスなので、遅かれ早かれアキレスは亀に追いつきます。
仮にアキレスが亀に追いつく地点をGとします。
しかし、もしこのアキレスと亀の競争を地点Gよりも前(たとえばDやEなどの地点)の段階で切り取ったとしたら?
アキレスはまだ亀には追いついていません。
そのため、アキレスが亀に負けているように見えるだけのことです。
つまりアキレスと亀の思考実験は、アキレスが亀にまだ追いついていない地点を拡大解釈したに過ぎないということです。
<2>”11.111…の収束の有無”が結果を左右するby高坂庵行さん
二つ目は『数式による考察』です。
なお、ここでの情報は『よくわかる思考実験』の著者である高坂庵行さんのご解説を中心としています。
まずは以下の表をご覧下さいませ。
スタート地点 | 1秒後 | 2秒後 | …10秒後 | |
---|---|---|---|---|
アキレス | 0m | 10m | 20m | 100m |
亀 | 100m | 101m | 102m | 110m |
(両者の距離の差) | (100m) | (91m) | (82m) | (10m) |
*アキレスの速度は10m/s、亀は1m/sの等速度運動をすると仮定
まずスタート地点におけるアキレスと亀の差は100m。アキレスの100m前に亀がいると仮定します。
さらに両者の速度はアキレスが10m/s、亀が1m/sとも仮定しているため、そんな両者の速度差は9m/s(=10m/s-1m/s)です。
すると1秒後の両者の距離の差は91m(=100m-9m)、続いて2秒後にはその差はさらに縮まり、82m(=91m-9m)。
よって3秒、4秒と時間を経ると、11.111…秒後(=100m÷9m)にアキレスは亀に追いついていることになります。
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…ですが、この“11.111…秒後”というのは、アキレスが亀に追いつけないことにも説明ができてしまいます。
どういうことかというと、アキレスは当初、亀がいた100mの地点まで10秒(=100m÷10m/s)かけて辿り着きました。
しかし、その間に亀も1m/sの速度で前に進んでいるため、そのときには亀は110mの地点にいます。
この時点での両者の距離の差は10m(=110mー100m)です。
アキレスはこの10mを差を埋めるべく、さらに1秒(=10m÷10m/s)を走る必要が出てきます。
しかし、そうするとその間に亀も1m/sの速度で前に進んでいるため~…(割愛)
…一体何が言いたいのかというと、以上のことを数式で表すと、11.111…秒後(=10s+1s+0.1s+0.01s+…)にアキレスは亀に追いついていないことにもなるというわけです。
そのため、少なくともこれらの仮定を元に『アキレスと亀』を数式によって考察すると、“11.111…秒後”という数字はアキレスが亀に追いつくことにも説明がつく一方、追いつかないことにも説明ができてしまうということになります。
いかにもパラドックスらしい表現ですが、高坂さんはこのことを次のようにご解説なされています。
ところで、ここまでの計算を分数で表してみよう。
最初の計算を直すと、100 ÷ 9=100 / 9(秒)となる。
小学生の時に教わった確かめ算を実施すると、100 / 9 × 9=100となる。
小数での結果についても同様に、確かめ算を行うと、11.111… × 9=99.999…となる。
同じ答えとなるべきなのに、合わないのだ。
これを理解するには、11.111…という数値が無限に続くのだという考えを捨てるより他にない。
100 / 9=11.111…という式のつじつまが合わなくなるからだ。
では、11.111…が無限に続かないのであれば、有限ということになるのだろうか。
有限であるのであれば、小数何桁まで続けば終わるのだろうか。
その答えについての説明はない。
(『よくわかる思考実験』50、51ページ より)
つまりこれらのことを一言でいうなら、小数点以下の収束の有無が関係しているといえそうです。
「『アキレスと亀』はどこがおかしいのか?」わかりやすくその屁理屈をまとめました【思考実験】まとめ
個人的に『アキレスと亀』は数ある思考実験のなかでも、屁理屈極まりない思考実験だと感じています。苦笑
おそらく意味不明に感じる人もいるでしょうし(自分もそうです)、つまらないと思う人もいるかもしれません(自分もそうです)。
とはいえ、考えることに面白さを感じる方にはたまらないのかもしれませんが(自分はそうではありません)。
参考文献
このページをつくるにあたり、大いに参考にさせていただきました。
ありがとうございました。