思考実験や名作のページをつくるにあたり、自分が活用させていただいている本が、『現代倫理学入門』という一冊です。
日常の問題などと絡めながら、倫理学がイチから体系的に学べる内容となっていて、とてもおすすめです。
なお、自分がいくつかの大学のシラバスを調べた限り、本書はこれまでにお茶の水女子大学や南山大学、法政大学、上智大学などの数多くの大学で、教科書や教材として使用されていたようです。
[本書が教科書や教材として採用された事例]
*現在の事情は不明
*掲載した事例は一部
また本書は1997年出版ではあるものの、自分はその内容が古いとは感じませんでした。
本書で指摘されていた倫理問題は、現在においても十分、一見の価値ある内容です。
(社会的には良いことではないのかもしれませんが…)
そこで今回は、そんな本書の一部(1~3章のみ)を要約させていただきました。
微力ながら、一人でも多くの方が、本書を手に取るきっかけとなれば…との思いからです。
- 『現代倫理学入門』の要約
- 留意点
- 参考文献
国家や自治体など公共の機関が、どうしても決めておかなくてはならない、最低限度の規則は、どのようにして決まるか。
これが倫理学のいちばん重要な課題である。
(『現代倫理学入門』167ページ より)
タッチ⇒移動する目次
『現代倫理学入門』要約
それでは1章から順にご紹介させていただきます。
第1章:カントとキケロの”嘘”への見解
“人の命を救うための嘘への是非”などを題材に、倫理学の側面から考察した章です。
正直、自分は本章を見る前は、「(さすがに嘘をつくことで人の命が救えるのなら、嘘をつくのは良いのでは…?)」と安直に考えていました。
しかし、少なくとも哲学者:カントは異なる見解を示しています。
第2章:ハリスが誘うユートピア
マンチェスター大学の応用倫理学教授:ジョン・ハリスが提唱した考え(いわゆる『臓器くじ』)から、『功利主義』を考察した章です。
第3章:『最大多数の最大幸福』と平等
3章では、「『最大多数の最大幸福』において、”平等”はどう扱われるか?」が取り上げられています。
ベンサムやミル、スペンサーなどの考えを紐解きながら、事例を挙げながら…そのことを考察しています。
『現代倫理学入門』の2つの留意点
最後は本書の留意点です。
本書を最後まで読み終えた自分が、個人的に感じた留意点などをまとめています。
<1>著者の主張は”意図して”抑えられている
まず本書では著者の主張が”意図して”抑えられています。
とはいえ、それは教科書として使われることを意識したから…とのこと。以下の通りです。
大学の倫理学の教科書として、バランスの取れた内容にするために、私の主観的な判断を強く出した所を削除して、重要な用語や立場の説明、重要な語句の引用文をなるべく多くすることにした。
(『現代倫理学入門』248ページ より)
<2>答えが示されているわけではない
また本書は章ごとに異なるテーマが用意されてはいるものの、明確に方向性を持った結論が示されているわけではありません。
読み終わってから、自分自身で考えを深めていくことが求められます。
この本は、どの章も論争の材料になるように書かれている。
この本で論争の準備をしておけば、自分で実際に「あれか、これか」の選択の前に立った時に役立つと思う。
(『現代倫理学入門』247ページ より)
もしかしたらこのことは倫理学をよくご存じの方にとっては、常識的なことなのかもしれません。
ですが、自分のような初学者にとってはその限りではないかもしれないと思い、念のため、留意点の一つとして挙げさせていただきました。
そのため、本書は読んで終わりではなく、むしろ読んでからが始まりなのかもしれません。