【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】
名作：『セロ弾きのゴーシュ』をご紹介させていただきました。
あらすじは全文ふりがな付きで、読み聞かせができるようにまとめています。
一つの参考にして下さいませ。
- 全文ふりがな付きのあらすじ要約
- 作者紹介
- 教訓の考察を解説：「伝えたいことは何だったのか？」
- 参考文献
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『セロ弾きのゴーシュ』のあらすじ内容を簡単に短く
まずはあらすじと作者紹介です。
物語：動物たちとの交流がもたらしたこと
ゴーシュは町外れの水車小屋に住んでいました。
午前中はトマト畑やキャベツ畑の手入れをし、午後になると町の活動写真館*に行きます。
ゴーシュは町の活動写真館でセロ*を弾く係でした。
けれどもその活動写真館の楽団である金星音楽団の楽手*のなかではいちばん下手でした。
金星音楽団は音楽会に向け、みんなで一生懸命練習していました。
ゴーシュも必死でしたが、楽長からは何度も曲を止められ、何度も厳しく叱られました。
その晩、ゴーシュは家に帰ってからも、なんべんもなんべんも、ごうごうごうごう弾き続けました。
そのとき扉を叩くものがありました。
三毛猫でした。
三毛猫は「シューマンのトロメライ*を弾いてごらんなさい。きいてあげますから」と頼みましたが、イライラしていたゴーシュは生意気な猫の態度がしゃくにさわり、嵐のような勢いで「印度の虎狩*」という曲を弾き、猫を追い出しました。
次の晩も、ゴーシュが夜中までセロを弾いていると、かっこうがやってきました。
かっこうは「先生どうか正確なドレミファを教えてください」と言いました。
ゴーシュはうるさいなと思いながらも、セロでドレミファを弾きました。
でもかっこうは「ちがいます、ちがいます。そんなんでないんです」と言って、かっこうは何度も続けて「かっこうかっこう」と叫びました。
ゴーシュは鳥の方が本当のドレミファにはまっているかなという気がしてきました。
どうも弾けば弾くほどかっこうの方がいいような気がするのでした。
でもまたゴーシュは何度でも叫ぼうとするかっこうにだんだんとイライラしてきて、「出ていけ」と言い、どんと床を踏みました。
するとびっくりしたかっこうは飛び立ち、硝子窓にぶつかります。
ゴーシュが窓を蹴ると、かっこうは外へ飛び出しました。
次の晩、今度は狸の子が入ってきました。
「ぼくは小太鼓の係でねえ。セロへ合わせてもらってこいと言われたんだ」
ゴーシュは狸の子といっしょにセロを弾きました。
すると狸の子はしばらく首を曲げて考えました。
それからやっと考えついたというように言いました。
「ゴーシュさんはこの二番目の糸を弾くとき遅れるねえ」
狸の子は、ゴーシュの演奏の問題点を指摘したのです。
ゴーシュは、はっとして、確かにそうかもしれないと思いました。
さらにその次の晩には、野ねずみの親子がやってきました。
母ねずみは「子供の病気を治してほしい」と言います。
ゴーシュには何のことだかわかりませんでした。
でもゴーシュはその子ねずみをセロの穴から中に入れ、曲を弾きました。
すると子ねずみは元気になり、母ねずみはゴーシュに何度もお礼を言いました。
それから六日目の晩でした。
金星音楽団の舞台は大成功に終わり、嵐のような拍手が鳴り止みません。
アンコールが巻き起こります。
そしてその求めに応じるために楽長が指名した演奏家は、なんとゴーシュだったのです。
その後、セロを弾き終わったゴーシュに、楽長は言いました。
「ゴーシュ君、よかったぞお。一週間か十日の間にずいぶん仕上げたなあ」
仲間たちも褒めてくれました。
その晩、ゴーシュは家に帰ってくると、窓を開けて遠くの空を眺めながら言いました。
「ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃなかったんだ」
（おわり）
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［用語の説明］
＊活動写真館：映画館のこと
＊セロ：弦楽器のチェロのこと
＊楽手：音楽を演奏する人のこと
＊シューマンのトロメライ：ドイツの作曲家であるシューマンの代表曲『トロイメライ』のことだと思われる。なお、この曲は『夢見ること』を意味する穏やかな曲である
＊印度の虎狩：本作でゴーシュが演奏した架空の曲。なお、最後のアンコールでゴーシュが演奏したのもこの曲だった
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作者：宮沢賢治
作者：宮沢賢治（1896～1933年）
現在の岩手県花巻市出身の童話作家であり詩人。
教員を経た後、農民の生活向上に尽力しながら、童話や詩を書き続けました。
本作：『セロ弾きのゴーシュ』は1934年に発表されています。
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岩手県の花巻町（現在の花巻市）に生まれた後、14歳で盛岡中学校に入学。
その頃には短歌を創作し始めています。
（前略）また登山や植物・鉱物の採集に熱中した。
（『学習人物事典』452ページ より）
中学を卒業後は盛岡高等農林学校に入学。
在学しながら童話を書き始めました。
その後、盛岡高等農林学校を卒業後は、同校の研究生として残り、郷土の土性調査を行います。
童話の創作は後述した『国柱会』に入会後も続けていました。
そのかたわら詩を書き、たくさんの童話を書いた。
今日のこされている賢治の童話の大部分は、このころに書かれたり、構想がねられたものが多い。
（『学習人物事典』453ページ より）
作品
その他の代表作の一部
生前に刊行されたのは2作品のみだった
宮沢 賢治は数多くの作品を世に送り出していますが、彼の生前に刊行された作品は2作品のみでした。
三十七歳で亡くなるまでに、「グスコーブドリの伝記」、「セロひきのゴーシュ」など、数多くの作品を残した。
しかし生前に刊行されたのは、詩集『春と修羅』と、「イーハトヴ童話」の副題がついた童話集『注文の多い料理店』という、二作品のみだった。
なお「イーハトヴ」とは賢治の造語で、岩手県のこと。
有名な詩「雨ニモマケズ」は、賢治の死後、手帳から発見された。
（『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』38ページ 宮沢賢治 より）
生前はほとんど無名だったが、死後、『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』『グスコーブドリの伝記』など、イーハトーヴ（国際共通語として提唱されたエスペラント語的な岩手の表記）童話と呼ばれる一連の作品が高く評価されるようになった。
（『倫理用語集』175ページ 宮沢賢治 より）
人物
推敲の徹底
また宮沢 賢治は自身の作品を徹底して推敲*することでも知られていました。
＊推敲：自分で書いた文章を読み返し、練り直すこと
徹底的に推敲を重ねることでも知られ、代表作の一つである「銀河鉄道の夜」には、一次稿から四次稿までが存在する。
（『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』38ページ 宮沢賢治 より）
宮沢賢治の代表的な童話作品。
繰り返し書き直され、生前は未発表に終わった。
（『倫理用語集』176ページ 『銀河鉄道の夜』 より）
仏教の信仰
さらに仏教を深く信仰していたことでも有名です。
両親とも熱心な仏教の信者で、賢治もおさないとき、両親のとなえるお経をそらでおぼえたりした。（中略）
上級に進んでからは仏教の本、とくに法華経*を読むようになった。
（『学習人物事典』452ページ より）
＊法華経：正式名称は『妙法蓮華経』といわれる仏教の重要な経典の一つであり、シャカが亡くなる前の8年の間に説いていた教えをまとめたものだともいわれている
なお、盛岡高等農林学校卒業後は、日蓮宗を深く信仰するようになったといいます。
このころから賢治は日蓮宗を深く信仰するようになり、宗教に身をささげようとして1921（大正10）年に上京、「国柱会」という日蓮宗の会に入って活動した。
（『学習人物事典』453ページ より）
菜食主義者
（前略）また菜食主義者*となった。
（『学習人物事典』452、453ページ より）
＊菜食主義者：いわゆる『ベジタリアン』のことで、動物性食品（肉や魚や卵など）を避けた食生活を送る人のこと
農民文化への関心
1924（大正13）年、詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を自費出版した賢治は、2年後の1926（大正15）年に農学校をやめ、農民のため肥料設計の相談や、新しい農民文化をつくりだすために全力をかたむけた。
「羅須地人協会」をつくって、農村青年のための農業化学や芸術の講義をしたりした。
（『学習人物事典』453ページ より）
農民芸術の提唱
その後、教職を辞して自ら農耕に従事し、農業と宗教・芸術の融合をめざす農民芸術を提唱（後略）
（『倫理用語集』175ページ 宮沢賢治 より）
作風
五感を刺激する世界観
児童文学の研究者：冨田 博之さんは、宮沢 賢治の作品の世界観を次のように表現なされています。
賢治の世界は、五感を刺激するんです。
音、光、色彩、匂い、そういうものにあふれている。
（『童話学がわかる』136ページ より）
オノマトペ
劇作家の如月小春さんは、宮沢 賢治の童話の魅力の一つに、『オノマトペ*』の存在を挙げられています。
（前略）賢治の童話の魅力に、オノマトペがある。
（『童話学がわかる』138ページ より）
＊オノマトペ：『ワクワク』など、状態や動作などを言葉で表現したもの
『月夜のでんしんばしら』では、でんしんばしらの軍隊が月夜に行進する様子が、
「ドッテテ ドッテテ ドッテテド」
というオノマトペで表現されている。
また『貝の火』では、つりがねそうがならす朝の鐘の音が、
「カンカンカンカエコカンコカンコカン」
と表現されている。
『風の又三郎』では、この物語のいわば本当の主役である風の音が、歌詞としてこう表わされている。
「どっどど どどうど どどうどどどう」
（『童話学がわかる』138ページ より）
【『風の又三郎』で伝えたかったことを考察】あらすじ内容を簡単に要約【「どっどど」の意味の解説も】
如月さんはこのような宮沢 賢治のオノマトペについて、次のようにまとめています。
童話として子どもたちがこれら、賢治のオノマトペに触れた時、敏感に反応を返してくるのはむろんのことである。
それはいわば、子どもたちにとっては物語世界の入り口として誘い込まれずにはおられない魅力をたたえているのだ。
（『童話学がわかる』139ページ より）
科学からの視点
賢治は詩人・童話作家であるとともに、科学者でもあった。
のこされた400あまりの詩、100あまりの童話には、自然を冷静に見つめる科学者の目と、ゆたかな想像力がとけあって、ふしぎな明るさにみちている。
（『学習人物事典』453ページ より）
独特な世界
自然と交感する感受性と、『法華経』の思想を軸とした、独特な作品の世界をつくりあげた。
（『倫理用語集』175ページ 宮沢賢治 より）
名言
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉は、宮沢 賢治が理想としていた幸福論を表す言葉です。
宮沢賢治が、羅須地人協会の理念として1926（昭和元）年に記した『農民芸術概論綱要』の中の言葉。
（『倫理用語集』175ページ 宮沢賢治 より）
この言葉は、個人の幸福が世界の幸福に包含されていることを意味しています。
宮沢賢治は、個人と社会を対立的なものとしてとらえる考え方を否定し、個人だけの幸福というものはありえず、世界の幸福が同時にその中の個々の幸福でもあるような世界を夢みた。
その実践が、農業が単なる生活のための手段となっている現状を批判し、労働と宗教・芸術の一体化をめざした農民芸術であった。
（『倫理用語集』175ページ 宮沢賢治 より）
評価
劇化される童話の豊富さ
さきほどもご紹介させていただいた劇作家の如月小春さんは、自身の経験から、宮沢 賢治の童話の、劇化作品の豊富さを次のように話して下さっています。
童話を原作として劇化される作品は無数にあるが、原作者を日本人に限定すると、これはもう圧倒的に、宮沢賢治が多い。
といっても別にきちんと統計をとって調べたわけではないのだが、児童劇の現場に関わっている者の一人として、これは実感以外の何ものでもない。
児童劇ばかりでなく、大人を対象とした劇にも、また映画やテレビドラマなどにも、賢治の童話を下敷きにしたもの、あるいはそれをモチーフにして自由に展開させたものなど、私自身が見たことのあるものだけでも相当の数にのぼるはずだ。
（『童話学がわかる』136ページ より）
如月さんはこの理由を、宮沢 賢治の童話が周知されていること、手に入りやすいといった事情に加え、童話自体に特色があるからだと考察。
それはさきほどの”五感を刺激する世界観”にも通ずることでした。
「『セロ弾きのゴーシュ』が伝えたいことは何だったのか？」解説【教訓の考察】
では、「本作：『セロ弾きのゴーシュ』が伝えたいことは何だったのでしょう？」
参考文献を元に、考察しました。
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注：ここからの情報は自分独自の考察に過ぎません。
間違っていないとは言い切れませんので、あくまで一つの参考にして下さいませ。
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『様々な人と交流することの大切さ』
結論からいうと、本作が伝えたかったことは、『様々な人*と交流することの大切さ』であったと自分は考察しました。
＊本作でゴーシュが交流したのは動物でしたが、ここでは便宜上、人と表記させていただいています
なぜなら、本作でゴーシュは様々な動物たちと交流したことで、演奏が上達したからです。
それは交流を通じてゴーシュが思いもしなかった気づきを得たり、客観的な広い視野を得ることができたためでした。
たとえば、かっこうとの交流では、ゴーシュは演奏の基本であるドレミファの音を見直すことができました。
狸の子との交流では、自身の演奏のクセに気づくきっかけを得ています。
また野ねずみの親子との交流においては、自身の演奏を感謝されたことで、演奏への自信を深めたと見れなくもありません。
とはいえ、以上のことは、いずれも交流によって生まれたことでした。
少なくとも一人でがむしゃらになっていては気づきにくいことだったと自分は考えます。
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ちなみに自分は本作でゴーシュと交流したのが人ではなく動物であった理由には、普段ゴーシュが接している楽団の人たちとの交流と区別する意味もあったような気もしています。
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【『セロ弾きのゴーシュ』が伝えたいことを解説】あらすじ内容も簡単に短く【教訓を考察】まとめ
本作：『セロ弾きのゴーシュ』には、動物たちとの交流を通じたゴーシュの成長が描かれていました。
