【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】
童話をはじめとした物語の様式に使われる、『枠物語』について、まとめました。
まず前提として枠物語とは、『作品内に一つ以上の物語を埋め込んだ物語様式』のことです。『額縁小説』などといわれることもあります。
白百合女子大学大学院児童文学専攻(当時)の池田美桜さんは、この枠物語の定義を次のように解説して下さっています。
伝聞形式や過去回想形式等を用いることで作品中に一つ以上の物語を埋め込んでいる、入れ子型構造の物語形態をいう。枠小説とも。
(『童話学がわかる』168ページ より)
そこでこのページでは、そんな枠物語が実際に使われている作品のご紹介、さらには見た人に与える効果の考察などをお伝えさせていただきます。
一つの参考にしていただければ幸いです。
- 『枠物語』とは何か?
- 【全12例】枠物語が使われた作品一覧
- 見た人に与え得る効果の考察
- 参考文献
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『枠物語』の代表作品12例
白百合女子大学文学部助教授(当時)の井辻朱美さんは、代表作を挙げながら、『枠物語』を次のように解説なされていました。
枠物語とは古くは『千一夜物語』にもさかのぼることのできる、物語の中に物語のある入れ子構造のことであるが、今世紀になってからの枠物語の大半は、C・S・ルイスの「ナルニア国物語」のように、<ここ>に住む主人公たちが、異世界へいざなわれて冒険をし、<ここ>にもどってくるという形をとるようになった。
(『童話学がわかる』147ページ より)
それではここからは、実際に枠物語が使われた上記2種類の作品を含め、代表作を順にご紹介させていただきます。
代表作の基準は自分の独断と偏見によるものですが、日本を含め、なるべく有名で幅広い種類の作品を選んでみました。
<1>千夜一夜物語
まず井辻さんのご紹介にもあった『千夜一夜物語*』は、『枠物語を語る際、真っ先に名前が挙がる小説集』です。
*千夜一夜物語:主にイスラム世界を舞台とした小説集のことで、『アラビアン・ナイト』とも呼ばれている
なお、この千夜一夜物語の中にある作品には、『アラジンと魔法のランプ』や『シンドバッドの冒険』、『アリババと40人の盗賊』などがあります。
【『アラジンと魔法のランプ』】あらすじ内容と教訓を簡単に【千夜一夜物語】
【『シンドバッドの冒険』】原作のあらすじ内容のネタバレ【千夜一夜物語】
【『アリババと40人の盗賊』が伝えたいこと】教訓の考察[原作のあらすじ内容も簡単に短く要約]
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補足:千夜一夜物語は、それ自体が物語られた構図に枠物語の形があったとされています。
そのため、千夜一夜物語の中の作品自体に枠物語の形が必ずしも成立しているわけではありません。念のために。
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<2>ナルニア国物語
続いても井辻さんのご紹介にありましたが、『ナルニア国物語』は、『魔法の国:ナルニア国と呼ばれる別世界での4兄弟の物語』です。
現実世界とは別にある、ナルニア国という別世界こそが枠物語の舞台となっています。
映画版も大変話題となりました。
<3>床下の小人たち
『床下の小人たち』は、『小人たちの生活が描かれたファンタジー』です。
祖母が孫に対して小人たちの生活を物語る場面が、枠物語の形となっています。
ジブリ映画:『借りぐらしのアリエッティ』の原作になったことでも有名です。
白百合女子大学大学院児童文学専攻(当時)の池田美桜さんは、本作のことを次のように話しています。
『床下の小人たち』(M・ノートン)は、祖母が孫に小人一家について物語るという設定を用いており、ある人物の語りが作品内に一つの枠を形成する点で、枠物語の典型的な構造を有している。
(『童話学がわかる』168ページ より)
<4>フランケンシュタイン
『フランケンシュタイン』は、『人造人間:フランケンシュタインを巡る、悲しくも恐ろしい物語』です。
物語の冒頭、北極探検隊の隊長:ロバート・ウォルトンが、姉のマーガレットに宛てた手紙が枠物語への入口となっています。
【『フランケンシュタイン』で伝えたいことを考察】あらすじも簡単に要約【メアリー・シェリー】
<5>パンチャタントラ
『パンチャタントラ』は、『枠物語が使われたインドの神話』です。
<6>おじいさんのランプ
『おじいさんのランプ』は、『目まぐるしく変わる時代を生き抜いてきたおじいさん(巳之助)の回顧録』です。
おじいさん(巳之助)が東一君に、過去回想を伝える形で枠物語が使用されています。
あらすじのほとんどが枠物語によって構成されていることも特徴的です。
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<7>ほら吹き男爵
『ほら吹き男爵』は、『ほら吹き*で有名な男爵の、奇想天外な物語』です。
*ほら吹き:でたらめを言ったりする人のこと
男爵の過去回想の場面が枠物語となっています。
本作も物語のほとんどが、枠物語によって占められています。
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<8>最後の一葉
『最後の一葉』は、『道徳の教科書に載ったこともある不朽の名作』です。
ある一人の画家が命を賭けて傑作を残した場面が、枠物語によって描かれています。
【『最後の一葉』のあらすじ】道徳の教科書にも載ったオー・ヘンリー不朽の名作【考察と感想も】
<9>白
『白』は、『友人を見捨てた罪により、体が黒くなった一匹の犬の物語』です。
物語の終盤、主人公である白の活躍が、枠物語の形で描かれていました。
【芥川龍之介:『白』】あらすじと解説「なぜ白の体は黒くなったのか?」
<10>賢者の贈り物
『賢者の贈り物』は、『とある擦れ違いをきっかけに、お互いへの想いが心温かく描かれた作品』です。
登場人物であるデラが、ショーウィンドーに展示されていた櫛をじっと見つめていた描写に、枠物語の様式が使われていました。
『賢者の贈り物』の教訓とあらすじのネタバレ「作者が伝えたいことは何だったのか?」
<11>蜘蛛の糸
『蜘蛛の糸』は、『芥川龍之介が生涯ではじめて書いた、児童向けの文学作品』です。
主人公であり極悪人の犍陀多が、生前に行った良い行いの様子が、枠物語の形によって描かれていました。
「『蜘蛛の糸』が伝えたいことは何だったのか?」あらすじを簡単に短く要約&考察【童話】
<12>あとかくしの雪
『あとかくしの雪』は、『道徳的な側面が垣間見える日本民話』です。
お坊さんが村にやってきた以降の村の様子が、伝聞によって語られています。
【『あとかくしの雪』の考察】あらすじもご紹介【作者不明の名作日本民話】
『枠物語』の効果を考察
最後は、以上ご紹介させていただいた『枠物語』が使われた作品を元に、見た人へもたらす効果を考察しました。
とはいえ、お伝えさせていただくことには統計データなどによる根拠があるわけではありません。
自分の推測の域を出ませんので、あくまで一つの参考としていただければ幸いです。
物語へ惹きつけ、没入感を高める
結論からいうと、『枠物語には、見た人をその物語へと惹きつけ、没入感を高める効果がある』と考察します。
その理由の一つがアクセントによる惹きつけです。
特に枠物語に特徴的な過去回想や伝聞は、物語中に差し込まれることにより、それまでの物語の時間軸や雰囲気などを一変させる効果があると考えます。
このことは起承転結でいうなら”転”に近い効果がある(気もする)ため、単調な物語ならなお、見た人を惹きつけ、没入感を高める効果がありそうです。
(…あくまで個人的考察、というか妄想に近いですが)
『枠物語』とは?代表作品と効果まとめ
『枠物語』が使われている作品は数多いです。
自分は枠物語の存在を知ってから、「(あっ、これは枠物語が使われてるな…)」などと思うようになりました。
(おかげで時に純粋に作品を楽しめなくなった気もしますが。苦笑)
とはいえ、枠物語の存在は、見た人へ作品の理解を深める一助となっている側面もある…気はするので、個人的には意義ある様式だと感じています。もちろん現代においても…です。