名作童話:『おじいさんのランプ』のご紹介です。
あらすじは読み聞かせができるようにまとめています。参考にして下さいませ。
- 『おじいさんのランプ』のあらすじ要約
- 【2つの教訓】あらすじの解説
- 考察
- 参考文献
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『おじいさんのランプ』のあらすじ要約
まずはあらすじと作者紹介です。
物語:あるランプにまつわる思い出
かくれんぼで、倉に潜り込んだ東一君が、珍しい形のランプを見つけた。
おじいさんはこう言った。
「このランプはな、おじいさんにはとても懐かしいものだ。昔の話をしてやるから、ここへ来て座れ」
今から五十年ぐらい前、ちょうど日露戦争*の頃である。
岩滑新田*の村に、巳之助という十三の少年がいた。
みなしご*であった巳之助は、区長さんの納屋に住まわせてもらいながら、よその家の手伝いをしていた。
巳之助は、いつか身を立てるのだと、そのきっかけを待っていた。
ある日、巳之助は人力車を引く手伝いを頼まれて、はじめて村を出て日暮れ時の大野*の町に入った。
そこで巳之助が一番驚いたのは、商店がともしている明るいガラスのランプであった。
巳之助の村では夜は暗いものだった。
大野の町では、ランプの光のもとで人々が生活し、物語のように美しく見えた。
文明開化ということがわかったような気がした。
巳之助はランプ屋でランプを一つ手に入れ、村で商売を始める。
工夫を凝らし、ランプは売れるようになった。
巳之助はこの商売が楽しかった。
次第に巳之助は青年となり、自分の家と家族を持った。
区長さんに字を教えてもらい、書物を読むことを覚えた。
「自分もこれでどうやらひとり立ちができたわけだ」
巳之助は心に満足を覚えるのであった。
しかし、ある日、巳之助が大野の町に行くと、そこでは電柱が立てられ、まぶしいくらいの電燈がともっていた。
電燈がともるようになれば、ランプ屋の商売はいらなくなるだろう。
村会で村にも電燈をひくことが決まったとき、巳之助は脳天に一撃をくらったような気がした。
巳之助は村会の議長さんを恨み、家の牛小屋に火をつけに行く。
しかし、どれだけ火打ち石*を打っても、大きな音ばかりで火がつかない。
「マッチを持ってくりゃよかった。こげな火打ちみてえな古くせえもなア、いざというとき間に合わねえだなア」
巳之助ははっきりとわかった。
ランプはもはや古い道具なのだ。
電燈という新しい便利な道具の世の中になったのである。
巳之助は家へ帰ると、大小さまざまな五十ぐらいのすべてのランプに火をつけて、池の淵の木の枝に吊るした。
「わしの、商売のやめ方はこれだ」
巳之助はランプに向けて石を投げた。
こうして巳之助は今までの商売をやめ、町に出て、本屋になった。
「おじいさんは偉かったんだねえ」
東一君は、巳之助という名のおじいさんの顔を眺めた。
そして、懐かしむように古いランプを見た。
(おわり)
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[用語の説明]
*日露戦争:1904年に起きた日本とロシアの戦争
*岩滑新田:愛知県半田市に位置する地区
*みなしご:両親のない子のこと
*大野:かつて現在の愛知県常滑市に存在した町
*火打ち石:火をつけるために打ち合わせる石のこと
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作者:新美南吉
作者:新美南吉(1913~1943年)
現在の愛知県半田市に生まれた後、児童文学作家として活躍。
子供の頃から創作活動に意欲的で、半田中学校に在学していた14歳の頃から、童話や童謡、小説、詩、俳句、劇作などの創作をしていました。
十四歳の頃から、童話や童謡を盛んに創作し始めた。
(『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』20ページ 新美南吉 より)
その後、半田小学校の代用教員をしながら、復刊した児童雑誌:『赤い鳥』に投稿。童話4編、童謡23編が掲載されます。
上京して東京外国語学校を卒業してからは、安城高等女学校で教員などの仕事をしながら、数々の作品を発表し続けました。
作品:1,500を超える作品を残した
(前略)童話の他、童謡、小説、戯曲、詩、俳句、短歌など、千五百を超える作品を残した。
それは、創作を始めたのが早かったおかげといえよう。
(『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』20ページ 新美南吉 より)
その他の代表作の一部
当サイトでご紹介させていただいたその他の代表作の一覧です。
作風:善意溢れる詩情を讃えた作
庶民の子どもの生活や喜び、悲しみを、物語のなかにたくみにとけこませて、ユーモアのある独特な語りくちで、清潔で善意あふれる詩情をたたえた作である。
(『学習人物事典』332ページ より)
評価:1960年代に評価され始めた
生前にはあまりみとめられなかったが、1960年代にいたって評価されはじめ、『新美南吉全集』全8巻が出版された。
(『学習人物事典』332ページ より)
『おじいさんのランプ』の解説「物語から学べる2つの教訓とは?」
では、「この童話:『おじいさんのランプ』からは、一体何を学ぶことができるのでしょうか?」
結論からいうと、そのあらすじから学べる教訓は大きく2つあると考えます。
あくまで自分の考察、解説に過ぎませんが、一つの参考としていただければ幸いです。
<1>時代の変化に迅速かつ柔軟に対応することの意義
一つ目の教訓は、『時代の変化に迅速かつ柔軟に対応することの意義』です。
まずこの童話に登場する巳之助は、時代の変化に合わせて商売をランプ屋から本屋へと変化させています。
そうすることで巳之助は、少なくとも自身がおじいさんになるまで生き残ることができました。
またそんな巳之助は、苦しくもあった自身の思い出を、今では懐かしむこともできています。
そのため、以上のことからこの童話では、巳之助のように、『時代の変化に迅速かつ柔軟に対応すること』は、『意義あること』だと描写されていると考察しました。
もちろん何事も変化させることだけが正義ではありません。変わらないことの意義もあることだろうと思います。
ですが、この童話の最後では、巳之助が商売を変える決断をしたことを、これからの時代を生きるであろう東一君が尊敬する描写も描かれています。
この描写も少なからず、『時代の変化に迅速かつ柔軟に対応することの意義』が強調されているようにも見えました。
<2>知性を駆使することの意義[人は考える葦]
とはいえ、この童話では、時代の流れに合わせてただ闇雲に変化することが推奨されていたわけではありません。
登場人物の巳之助は、放火に失敗した出来事を通じ、ランプが既に時代遅れであることに気づきます。
思わぬ出来事から気づきを得た巳之助ではありますが、それは巳之助自身がそのとき知性を働かせたからに他なりません。
もしそのとき巳之助が冷静にならず、ただ憎しみに任せて放火を続行していれば、時代の変化を客観的に実感することはできなかった可能性もあります。
このことは見方によっては、『知性を駆使することの意義』が問われているようにも思いました。これが2つ目の教訓です。
直感や思いつきに任せて運よく成功することもあれど、この童話においての巳之助は、その限りではありません。
知性を働かせ、常に意図を持ったうえで行動しています。
以上のことは、パスカルの言葉を借りるなら、「人は『考える葦』である」という言葉が体現されているかのような童話だった気もしました。
『おじいさんのランプ』の考察
最後は考察です。
『枠物語』の様式が使われている
童話:『おじいさんのランプ』では、『枠物語』の様式が使われています。
白百合女子大学大学院児童文学専攻(当時)の池田美桜さんは、この『枠物語』を次のように解説して下さっています。
伝聞形式や過去回想形式等を用いることで作品中に一つ以上の物語を埋め込んでいる、入れ子型構造の物語形態をいう。枠小説とも。
(『童話学がわかる』168ページ より)
つまりこの童話:『おじいさんのランプ』においては、登場人物のおじいさん(巳之助)が東一君に自身の過去の話を伝えていることこそが、この『枠物語』に当てはまるということです。
白百合女子大学文学部助教授(当時)の井辻朱美さんは、このような『枠物語』の様式を、次のように解説なされていました。
枠物語とは古くは『千一夜物語』にもさかのぼることのできる、物語の中に物語のある入れ子構造のことであるが、今世紀になってからの枠物語の大半は、C・S・ルイスの「ナルニア国物語」のように、<ここ>に住む主人公たちが、異世界へいざなわれて冒険をし、<ここ>にもどってくるという形をとるようになった。
(『童話学がわかる』147ページ より)
『枠物語』とは?代表作品11例からその効果を考察【わかりやすく説明】
『おじいさんのランプ』あらすじを要約&解説まとめ
童話:『おじいさんのランプ』は、時代の荒波に翻弄されたおじいさん(巳之助)が、目の前のランプをきっかけに、そんな自身の過去を振り返っていくあらすじでした。
またそのあらすじは、時代の変化とどう向き合っていくかの示唆に富んでいたものだったとも思います。
現代はもちろん、これからの時代でも、色あせることなくその価値を帯び続けていくであろう名作童話であることに、間違いはありません。