【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】
名作:『あとかくしの雪』のご紹介です。
あらすじは読み聞かせができるようにまとめています。参考にして下さいませ。
- 『あとかくしの雪』のあらすじ
- 考察
- 参考文献
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『あとかくしの雪』のあらすじ
まずは考察の前提となるあらすじと作者紹介です。
物語:優しさの結末
ずっと昔のこと。みすぼらしい姿をしたお坊さんがいました。
お坊さんは旅の途中、あるおじいさんに出会います。
おじいさんは谷川の水をくみ、かつぎ上げていたのでした。
その村では谷川におりないと、水を得ることができなかったからです。
おじいさんはあいさつをして、お坊さんのひもが切れたわらじを見ると、自分のものと取りかえてあげたのでした。
お坊さんはお礼を言い、持っていた錫杖*で近くの岩を3回突きました。
すると驚いたことに、きれいな水が湧き出てきたのです。
あたりが暗くなった頃、ようやくお坊さんは目指していた村へと着きました。
そこでまずお坊さんは、周りの家より少し大きい家をたずねて、一晩泊めてくれるようお願いするのでした。
しかし、その家の奥からは、「さっさと追い返せ」という声が聞こえてきました。
お坊さんは言われた通りにそこを出ましたが、その際、その家の戸口に積んであったかます*を1回だけ突きました。
すると驚いたことに、中に入っていたイモを石イモ*に変えたのです。
それ以降、その家の畑で取れるイモは、すべてが石イモになってしまいました。
それからお坊さんは、小さな家の戸を叩き、また泊めてくれるようお願いしました。
その家で暮らしていたのはおばあさんでした。
おばあさんは、「何もありませんが…」とは言いながらも、お坊さんのことを迎え入れてあげました。
お坊さんは、「私は何もいらない」と言い、冷え切った体を囲炉裏*の火であたためるのでした。
しかし、おばあさんはそんなお坊さんのことを気の毒に思いました。
とはいえ、その家で一人暮らしをしていたおばあさんには、お坊さんのために今すぐしてあげられることが見つかりませんでした。
そこでおばあさんは、申し訳なく思いながらも、となりの家の庭先から、大根を1本だけ抜き取ってきたのです。
足跡が残ったので、朝になればおばあさんが盗んだことはばれてしまうでしょう。
それでもおばあさんはその大根を焼き、お坊さんのためにごちそうをしてあげたのでした。
いつのまにか、外では大雪が降っていました。
次の日の朝、おばあさんが目を覚ますと、すでにお坊さんは家にはいませんでした。
そして前の夜から降った雪は、おばあさんがとなりの庭に行ったときについた足跡を、すべて消してしまっていたのでした。
お坊さんがこの村にやってきたのは、11月23日の冬至の晩のことです。
それ以来、村人たちは、冬至には大根焼きを食べるようになったといいます。
(おわり)
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[用語の説明]
*錫杖:僧侶が持ち歩く杖のことで、頭に金属の輪がついている
*かます:『むしろ』(藁などで編んだ敷物)でつくった袋のこと
*石イモ:かたくて食べられないイモ
*囲炉裏:床の一部を四角形に切り抜いて火が焚けるようにした場所
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作者:不明
作者:不明
なお、作品が発表された年も不明です。
『あとかくしの雪』の考察
最後は考察です。
とはいえ、自分の考察に過ぎませんので、あくまで一つの参考にして下さいませ。
『因果応報』が垣間見える
まず本作:『あとかくしの雪』では、『因果応報』の側面が描かれていたように考えます。
人間の行為(カルマ)によってその幸・不幸や運命が決まるという考え。
(『倫理用語集』74ページ 因果応報 より)
このことは以下の表にまとめました。
お坊さんにした行為 | その結果もたらされたこと(幸・不幸) | |
---|---|---|
おじいさん | 自分のわらじをあげた | きれいな水に恵まれた |
大きい家の人 | 家から追い返した | 畑のイモがすべて石イモになった |
おばあさん | 盗みを働いてごちそうをした | 大雪で盗みの痕跡が消えた |
*表が見切れている場合は左右にスライドして下さいませ
*幸にあたることは青色、不幸にあたることは赤色に色分けしています
つまり本作ではお坊さんに対して親切にした人たちには良い結果がもたらされた一方、お坊さんに不親切にした人には、悪い結果がもたらされたということです。
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とはいえ、これらの結果のなかにはお坊さんが明確に意図して起こしたものも含まれているため、因果応報の趣旨とはズレている面があるかもしれません。
また道徳的な異論として、「お坊さんのためとはいえ、大根を盗むのは人としてどうなのか?」、「「さっさと追い返せ」と言っただけで、罰を下したかのような描写はどうなのか?」といった意見を持たれる方もいることだろうとは思います。
よってこの因果応報であるとする自分の考察は、一面的なことです。
繰り返す通り、あくまで一つの参考にしていただければと思います。
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『枠物語』の様式が使われている
また本作では『枠物語』の様式が、局所的に使われていたようにも考察します。
白百合女子大学大学院児童文学専攻(当時)の池田美桜さんは、この『枠物語』のことを次のように解説して下さっています。
伝聞形式や過去回想形式等を用いることで作品中に一つ以上の物語を埋め込んでいる、入れ子型構造の物語形態をいう。枠小説とも。
(『童話学がわかる』168ページ より)
本作ではあらすじの終盤、村人たちの様子が伝聞形式で語られていた場面がありました。
お坊さんが村にやってきた11月23日の冬至の晩以来、村人たちが、その日に大根焼きを食べるようになった場面がそれです。
つまりその場面がこの、『枠物語』にあたるのでは…と自分は考えました。
白百合女子大学文学部助教授(当時)の井辻朱美さんは、このような『枠物語』の様式を、次のように解説なされていました。
枠物語とは古くは『千一夜物語』にもさかのぼることのできる、物語の中に物語のある入れ子構造のことであるが、今世紀になってからの枠物語の大半は、C・S・ルイスの「ナルニア国物語」のように、<ここ>に住む主人公たちが、異世界へいざなわれて冒険をし、<ここ>にもどってくるという形をとるようになった。
(『童話学がわかる』147ページ より)
『枠物語』とは?代表作品12例からその効果を考察【わかりやすく説明】
『あとかくしの雪』あらすじまとめ
日本民話:『あとかくしの雪』は、見方によっては道徳的な側面のある作品です。
作者が不明であるため、その意図はわかりませんが、見た後に考えさせられる作品であることには間違いありません。