【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】
名作:『フランケンシュタイン』のご紹介です。
あらすじは全文ふりがな付きで、読み聞かせができるようにまとめています。一つの参考にして下さいませ。
- 全文ふりがな付きのあらすじ要約
- 作者紹介
- 考察:「伝えたいことは何だったのか?」
- 『フランケンシュタイン・コンプレックス(症候群)』について
- 物語様式の考察
- 参考文献
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『フランケンシュタイン』のあらすじを簡単に要約
まずは考察の前提となるあらすじと作者紹介です。
物語:心は人間のまま
北極探検隊の隊長:ロバート・ウォルトンは、姉のマーガレットに手紙を書きました。
そこには、ウォルトンが探検の途中で見つけた、ヴィクター・フランケンシュタインという科学者が自ら語った、彼自身の半生がつづられていました。
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ヴィクター・フランケンシュタイン博士は、優秀な科学者でした。
博士は、長い研究の末、人造人間*をつくることに成功。
博士がつくった人造人間は、人間と同じ感情を持っていました。
しかし、その体は、人間の死体を寄せ集めてつくったに過ぎません。
そのため、見た目はまるで怪物のように、醜いものでした。
しかもその怪物は、あるとき博士が隙を見せた途端、実験室から逃げ出してしまいます。
外に出た怪物は、楽しそうに食事をしている家族を見て、人間に親しみを感じました。
怪物はそれから、人に声をかけるようになりました。
しかし、怪物を見た人は、その見た目から悲鳴をあげて逃げ出してしまう始末です。
なかには、こん棒*で殴りかかってくる人もいました。
怪物は、そんな毎日を繰り返すうち、強い孤独感を味わうようになります。
「なんということだろう…」
やがて身も心も傷ついた怪物は、そこで、ふと気がつきました。
「(悪いのは、こんな姿の自分をつくった博士なのではないか…?)」
そう思った怪物は、博士の前に姿を現し、自分の苦しさを救うよう求めます。
そして自分の結婚相手をつくるように強く求めたのでした。
博士は、怪物を醜い姿にしてしまったことに、責任を感じていました。
そのため、博士は怪物の願いを聞き入れ、もう一体、怪物のためにつくることを約束します。
しかし、博士はそのもう一体をつくり始めてしばらくしたとき、あることに気がついてしまいます。
「(夫婦になった怪物は、やがて子供をつくる…すると、怪物の数はどんどんと増えていき、最後は人間を滅ぼすのではないか…?)」
そう不安を感じた博士は、結局、実験室の装置をすべて壊してしまいました。
それを知った怪物は怒ります。
怪物はいったん希望を持っただけに、その怒りを抑えることができませんでした。
そして怪物は、怒りのままに、博士の妻の首を絞め、殺してしまったのです。
博士は妻と結婚したばかりでした。
博士は自分がした行いを、強く後悔します。
そしてそれと同時に、博士の怪物に対する同情は消え去りました。
残ったのは、憎しみだけです。
さすがに博士も黙ってはいられません。
博士は怪物を殺すため、復讐心を燃やし、武器を持って怪物の後を追いかけました。
怪物はそんな博士をあざ笑うかのように、あちこちと逃げ回ります。
そこで怪物が最後に向かったのは、北極圏でした。
博士は極寒の中、体力を失いながらも、必死に怪物を追い続けます。
しかし、ついに博士は力尽きてしまいました。
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その後、博士は北極探検隊の隊長:ロバート・ウォルトンが乗った一隻の船に助けられます。
しかし、博士の心身は弱り切っていました。
博士はそこで、ウォルトンに自身のこれまでの体験を語った末、ついに亡くなってしまいました。
船の隅でその様子を見届けていた怪物は、やっと満足します。
そして、怪物はこう言いました。
「後は、自分のこの醜い体を北極点で焼き尽くし、灰にするだけだ…」
怪物は、船を降りて歩き始めました。
その後の怪物の行方を知る者は、誰もいません。
(おわり)
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[用語の説明]
*人造人間:人型ロボットなどの、人間に似た見た目の機械や人工生命体のこと
*こん棒:武器にもなる太い棒のこと
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作者:メアリー・シェリー
作者:メアリー・シェリー(1797~1851年)
イギリスの小説家。夫は詩人だった。
本作:『フランケンシュタイン』は作者が20歳のとき、匿名という形で出版しています。
「『フランケンシュタイン』で伝えたいことは何だったのか?」【考察】
では、「本作:『フランケンシュタイン』で、作者が伝えたいことは何だったのでしょう?」
参考文献を元に、考察しました。
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注:ここからの情報は自分独自の考察に過ぎません。
間違っていないとは言い切れませんので、あくまで一つの参考にして下さいませ。
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『人為的に人体を蘇生することへの問題提起』
結論からいうと、本作の作者:メアリー・シェリーは、本作を通じて、『人為的に人体を蘇生することへの問題提起をしたかった』のではないかと自分は考察しました。
つまりは現在でいうところの『生命倫理』にも通ずる問題提起です。
(前略)自然の営みである生命にどこまで人為的な操作を加えることが許されるかについて考えることが求められ、哲学・宗教・道徳・法律などの分野の知識を総合して、生命をめぐる問題について倫理的な判断をくだそうとする生命倫理(バイオエシックス)が成立した。
(『倫理用語集』290ページ 生命倫理(バイオエシックス) より)
まず前提として、元々、本作の作者がフランケンシュタインというキャラクターを創作したきっかけには、作者が生体電気*による人体蘇生実験の様子を人づてに伝え聞いたことにあったという説があります。
*生体電気:生物の身体そのものが、電気を発し、金属を接続することによって放電、痙攣が生じること
その実験の詳細は人体実験のページでまとめているのでここでは簡単にお伝えさせていただきますが、1780年に物理学者:ルイージ・ガルヴァーニの実験に始まり、その甥であるジョヴァンニ・アルディーニが人間に対して行った人体蘇生実験のことを指しています。
結局、その実験自体は成功することはなかったものの、実験の様子は当時のイギリスの新聞:『ロンドン・タイムズ』の報道に取り上げられたこともあり、大きな話題を呼んだそうです。
そこではアルディーニによって電極棒を押し当てられた死体は一時的ではありながらも、両足をバタつかせたり、右手の拳を突き上げたりするなどの反応はしたとの様子が伝えられていたそうです。
見方によっては死者を愚弄しているように見えなくもない実験であったようにも思います。
そして本作ではこれも見方によっては誰も救われない結末となっていたわけですが、その理由は作者が人為的に人の命を蘇生させることへの問題提起、もしくは警告の意味を込めたからだったのではないか…と自分は考察したということです。
もちろん繰り返す通り、以上のことは自分の考察に過ぎません。
作者が伝えたかったことはまったく別にあったのかもしれませんし、むしろ伝えたいことなど特になかったことも十分考えられます。
『フランケンシュタイン・コンプレックス(症候群)』とは?」【本作が由来】
なお、本作:『フランケンシュタイン』は、『フランケンシュタイン・コンプレックス』の由来となった作品でもあります。
『人造人間などの生命を創造する憧れと、それによって人間の存在が脅かされるかもしれないという恐怖が入り混じった複雑な心理』
『フランケンシュタイン・コンプレックス』とは、『フランケンシュタインのような人造人間などを創造する憧れと、それによって人間の存在が脅かされるかもしれないという恐怖が入り混じった複雑な心理のこと』です。
『フランケンシュタイン症候群』とも呼ばれています。
一種の心理現象です。
【心理現象一覧】面白い有名な心理現象の名前と意味大全【心理学を大学で勉強した自分が徹底調査】
『フランケンシュタイン』の物語様式の考察
最後は物語様式にまつわる考察です。
『枠物語』の様式が使われている
本作:『フランケンシュタイン』では、『枠物語』の様式が使われています。
白百合女子大学大学院児童文学専攻(当時)の池田美桜さんは、この『枠物語』を次のように解説して下さっています。
伝聞形式や過去回想形式等を用いることで作品中に一つ以上の物語を埋め込んでいる、入れ子型構造の物語形態をいう。枠小説とも。
(『童話学がわかる』168ページ より)
つまりこの作品:『フランケンシュタイン』においては、冒頭で北極探検隊の隊長:ロバート・ウォルトンが、姉のマーガレットに書いた手紙の内容が、この『枠物語』になっているということです。
白百合女子大学文学部助教授(当時)の井辻朱美さんは、このような『枠物語』の様式を、次のように解説なされていました。
枠物語とは古くは『千一夜物語』にもさかのぼることのできる、物語の中に物語のある入れ子構造のことであるが、今世紀になってからの枠物語の大半は、C・S・ルイスの「ナルニア国物語」のように、<ここ>に住む主人公たちが、異世界へいざなわれて冒険をし、<ここ>にもどってくるという形をとるようになった。
(『童話学がわかる』147ページ より)
『枠物語』とは?代表作品12例からその効果を考察【わかりやすく説明】
【『フランケンシュタイン』が伝えたいことを考察】あらすじも簡単に要約【メアリー・シェリー】まとめ
本作:『フランケンシュタイン』は、恐ろしくも悲しい物語でした。
そしてその物語には、人の命を考えさせられる側面があったような気がします。