「『堕落論』が伝えたいことは何だったのか?」あらすじをわかりやすく解説&考察【名言とともに】

落下

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名作 【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】

名作:『堕落論』をご紹介させていただきました。

あらすじは全文ふりがな付きで、作品の世界観を壊さないよう最大限留意しつつ、現代語訳風にして要約しています。

一つの参考にして下さいませ。

このページでわかること
  1. 全文ふりがな付きの現代語訳風のあらすじ要約
  2. 作者紹介
  3. 「伝えたいことは何だったのか?」【解説と考察】
  4. 名言集
  5. 参考文献

『堕落論』のあらすじ内容をわかりやすく要約

まずは解説と考察の前提となる本作のあらすじ要約と作者紹介です。

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生きているから堕ちるだけだ

半年はんとしのうちになかわった。

戦争せんそうによって若者わかものたちははなったが、おなかれのこってやみ*となる。

けなげな気持きもちでおとこ戦争せんそうおくったおんなたちも、半年はんとしのうちにおっとはいおがむことも事務じむてきになる。

やがてあらたな面影おもかげむね宿やどすのも、とおのことではない。

 

人間にんげんわったのではない。

人間にんげん元来がんらいそういうもので、わったのはなかのうわべだけのことだ。

 

元来がんらい本人ほんじんもっとぞうしんすくない、また永続えいぞくしない国民こくみんであり、昨日きのうてき今日きょうともという楽天性らくてんせい実際じっさいいつわらぬしんじょうであろう。

ていがないと本人ほんじん戦闘せんとうにかりたてるのは不可ふかのうなのだ。

 

特攻隊とっこうたい*のゆうは、ただ幻影げんえいであるにすぎず、人間にんげんれきやみとなるところからはじまるのではないか。

亡人ぼうじん聖女せいじょであることも幻影げんえいにすぎず、あらたな面影おもかげ宿やどすところから人間にんげんれきはじめるのではないか。

れきというもの巨大きょだいさと同様どうように、人間にんげんたいおどろくほど巨大きょだいだ。

きるということはじつ唯一ゆいいつ不思議ふしぎである。

 

ろくじゅうななじゅうしょうぐんたちが、切腹せっぷくもせずに法廷ほうていにひかれるなどとは、しゅうせんによって発見はっけんされた、壮観そうかん人間にんげんであり、ほんけ、そして武士ぶしどうほろびたが、らく*というものを真実しんじつははとして、はじめて人間にんげんたんじょうしたのだ。

きよちよ、その正当せいとうじゅんのほかに、しん人間にんげんすく便べん近道ちかみちがありるのだろうか。

 

しゅうせん我々われわれはあらゆるゆうゆるされたが、ひとはあらゆるゆうゆるされたとき、みずからの不可ふかかい限定げんていと、その不自ふじゆうさにづくのであろう。

人間にんげん永遠えいえんゆうではありない。

なぜなら、人間にんげんきており、またなねばならず、そして人間にんげんかんがえるからだ。

せいじょう改革かいかく一日いちにちおこなわれるが、人間にんげんへんはそうはいかない。

 

人間にんげん戦争せんそうがどんなすさまじいかい運命うんめいをもってかうにしても、人間にんげんたいをどうこうできるものではない。

戦争せんそうわった。

特攻隊とっこうたいゆうはすでにやみとなり、亡人ぼうじんはすでにあらたな面影おもかげによってむねをふくらませているのではないか。

 

人間にんげんわりはしない。

ただ人間にんげんもどってきたのだ。

人間にんげんらくする。義士ぎし聖女せいじょらくする。

それをふせぐことはできない。ふせぐことによって、ひとすくうことはできない。

 

人間にんげんき、人間にんげんちる。

そのことがいなかに、人間にんげんすく便べん近道ちかみちはない。

 

戦争せんそうけたからちるのではないのだ。

人間にんげんだからちるのであり、きているからちるだけだ。

そしてひとのように、ほんもまたちることが必要ひつようであろう。

ちるみちちきることによって、ぶんしん発見はっけんし、すくわなければならない。

せいによるすくいなど、うわべだけのおろかなものである。

(おわり)

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よう説明せつめい

やみ混乱こんらんぶったかりさばくしょうにんのこと

特攻隊とっこうたいたいたり攻撃こうげきをするけっ死部しぶたいのこと

らくちぶれ、本来ほんらいただしい姿すがた価値かちなどをうしなってしまうこと

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作者:坂口安吾

坂口安吾

作者:坂口安さかぐちあん(1906~1955年)

新潟県出身の小説家。

新潟県の大地主の家に生まれた。

父は県会議長、のちに衆議院議員をつとめ、漢詩*にも通じていた。

(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)

かん:中国の伝統的な詩のこと

中学に進学したが、家庭の複雑さもあって奔放・孤独な日常を送り中退、仏教を学ぼうと1926(昭和元)年に東洋大学哲学科に入学した。

交流のあった芥川龍之介の自殺に衝撃を受け、精神的に不安定となるが、アテネ=フランセで学ぶうちに小説家を志す。

大学卒業後、同人誌を創刊、創作を始めて新進作家となった。

(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)

その他の代表作には『教祖の文学』や『風と光と二十はたちの私と』など多数。

評価

古い道徳観を否定した自由で大胆な作品の数々は、社会に衝撃を与え続けました。

『無頼派』

特に本作:『堕落論』はベストセラーとなり、太宰治だざいおさむらとともに『らい』と称されるまでになりました。

(前略)人間が人間本来の姿に戻ることを「堕落」と呼んでベストセラーとなり、太宰治だざいおさむらとともに「らい」と呼ばれた。

(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)

鋭い評論と独特の視点からの文明批評

やがて物心ともに苦しい生活の中で、「突きつめた極点で生きることに向かった時、そこから新しい倫理が発足する」と説くなど、鋭い評論を発表した。

(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)

作品は多彩で、独特の視点からの文明批評も有名である。

(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)

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「『堕落論』が伝えたいことは何だったのか?」わかりやすく解説【考察】

では、「本作:『堕落論』が伝えたいことは何だったのでしょう?」

参考文献を元に、まとめました。

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注:ここからの情報は自分独自の考察に過ぎません。

間違っていないとは言い切れませんので、あくまで一つの参考にして下さいませ。

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【結論】『人間の本質は不変なのだから、それを受け入れ、肯定するしかない』

結論からいうと、本作は、『人間の本質は不変なのだから、それを受け入れ、肯定する以外に人間を導くことはできない』ということを伝えたかったのではないかと自分は考察しました。

その理由は、本作では、次の2つのメッセージが垣間見えるからです。

2つのメッセージ
  1. 人間の本質は不変であり、決して変えることはできない
  2. そうであるなら、いっそのこと、人間の堕落すらも切り離せない不変の本質として受け入れ、肯定する以外ない

<1>不変性

まず一つ目のメッセージは、一言でいえば不変性です。

そしてその不変性は、本作においては、世の中のいかなる影響によっても決して変わるものではないとされていました。

たとえ戦争や道徳や政治、価値観などの変化などがあったとしても…です。

半年はんとしのうちになかわった。

戦争せんそうによって若者わかものたちははなったが、おなかれのこってやみとなる。

けなげな気持きもちでおとこ戦争せんそうおくったおんなたちも、半年はんとしのうちにおっとはいおがむことも事務じむてきになる。

やがてあらたな面影おもかげむね宿やどすのも、とおのことではない。 

人間にんげんわったのではない。

人間にんげん元来がんらいそういうもので、わったのはなかのうわべだけのことだ。

人間にんげん戦争せんそうがどんなすさまじいかい運命うんめいをもってかうにしても、人間にんげんたいをどうこうできるものではない。

せいじょう改革かいかく一日いちにちおこなわれるが、人間にんげんへんはそうはいかない。

<2>原点回帰

2つの目のメッセージは、原点回帰への提言だと自分は考えました。

このことは本作のタイトルにも使われている”堕落”という言葉の意味が、本作においては”人間が本来の姿に戻ること”と定義されていることにも理由の一端があります。

(前略)人間が人間本来の姿に戻ることを「堕落」と呼んでベストセラーとなり、太宰治だざいおさむらとともに「らい」と呼ばれた。

(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)

つまり本作には『堕落論(≒原点回帰論)』という意味合いもあったのではないか…と自分は考えたということです。

人間にんげんわりはしない。

ただ人間にんげんもどってきたのだ。

人間にんげんらくする。義士ぎし聖女せいじょらくする。

それをふせぐことはできない。ふせぐことによって、ひとすくうことはできない。

なお、本作の最後では、この”変わらない”という本質は、何も人間だけに留まらず、日本という国の本質でもあると指摘されていました。

そしてひとのように、ほんもまたちることが必要ひつようであろう。

ちるみちちきることによって、ぶんしん発見はっけんし、すくわなければならない。

せいによるすくいなど、うわべだけのおろかなものである。

よって以上のことから本作は、作者なりの、人間をはじめとした国への提言という側面もあったのかもしれません。もちろん実際のところはわかりませんが。

とはいえ、個人的に本作は、

「人間が真の自由を手に入れるためには、人間本来の姿を取り戻すことに立ち返ること」

といった、現代人にも訴えかけてくるメッセージ性があったように感じました。

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『堕落論』の名言集

最後は本作:『堕落論』の名言集です。

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注:名言の選定基準は自分の独断と偏見です。

悪しからずご了承下さいませ。

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「人間は変わりはしない」

人間にんげんわりはしない。

ただ人間にんげんもどってきたのだ。

人間にんげんらくする。義士ぎし聖女せいじょらくする。

変わらない、変わることができない人間の本質を突いているかのような名言です。

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「人間は生き、人間は堕ちる」

人間にんげんき、人間にんげんちる。

シンプルながら、この一文には作者が考える人間観が凝縮されている気がしました。

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【『堕落論』の伝えたいこと】あらすじをわかりやすく解説&考察【名言とともに】まとめ

本作:『堕落論』は、当時の世の中の劇的な移り変わりに目が向けられながらも、人間の本質が鋭く突かれた作品であったように自分は思いました。

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参考文献

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