【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】
童話:『花のき村と盗人たち』のご紹介です。
あらすじは読み聞かせができるようにまとめています。参考にして下さいませ。
- 『花のき村と盗人たち』のあらすじ
- 読み終わった感想
- 参考文献
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『花のき村と盗人たち』のあらすじ
まずはあらすじと作者紹介です。
物語:村にやって来た盗人の前に、現れた一人の男の子
昔、花のき村*に、五人組の盗人がやってきました。
頭は、盗人になったばかりの四人に村の様子を見に行かせ、藪のかげで待っていました。
そこへ、誰かが頭に声をかけます。
「おじさん」
頭が振り返ると、そこには草鞋*を履いた七歳くらいの可愛らしい男の子が、子牛を連れて立っていました。
「この牛、持っていてね」
子供はそう言うと、赤い手綱を頭の手に預け、走っていってしまいました。
「くッくッくッ」と、頭は笑いました。
「わしはもう牛の子を一匹盗んだ」
あんまり笑ったので、涙が出てきました。
そして、涙が流れて流れて、止まらなくなりました。
「これじゃ、まるで泣いてるのと同じじゃないか」
そうです。盗人の頭は泣いていたのです。
頭は今まで、人から冷たい眼でばかり見られてきました。
頭が通れば人々は、「そら変なやつがきた!」と言わんばかりに、窓を閉めたり、すだれを下ろしたりしました。
みんなが自分を嫌い、信用してはくれなかったのです。
ところが、草鞋を履いた子供は、そんな自分に子牛を預けてくれました。
またこの子牛も、ちっとも嫌がらず、おとなしくしています。
子供も子牛も、自分を信用しているのです。
こんなことは、頭にとって生まれてはじめてのことでした。
「(あの子供が帰ってきたら、こころよく子牛を返してやろう…)」
頭はそう考えていました。
しかし、どういうわけか、夜になっても子供は姿を現しません。
戻ってきた四人と一緒に探しても見つからないので、村役人の家へ行き、訳を話して、子牛を預かってもらうことにしました。
そしてとうとう頭は、自分が盗人であることを村役人に白状したのです。
他の者たちは、まだ何も悪いことをしていなかったので許してもらい、次の日の朝、村から出ていきました。
こうして五人の盗人は改心したのですが、あの子供は誰だったのでしょう。
村の人々もわからなくて、ついにはこう決まりました。
それは、土橋のたもとに昔からある小さな地蔵さんだろう。
草鞋を履いていたというのが証拠である、と。
なぜなら、この地蔵さんには村人たちがよく草鞋をお供えすることがあり、ちょうどその日も、新しい草鞋が足もとにあげてあったからです。
花のき村の住人がみな心の善い人々だったので、地蔵さんが盗人から救ってくれたのかもしれません。
(おわり)
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[用語の説明]
*花のき村:作者がつくった想像上の平和な村のこと
*草鞋:藁などで編んだ履物のこと
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作者:新美南吉
作者:新美南吉(1913~1943年)
現在の愛知県半田市に生まれた後、児童文学作家として活躍。
子供の頃から創作活動に意欲的で、半田中学校に在学していた14歳の頃から、童話や童謡、小説、詩、俳句、劇作などの創作をしていました。
十四歳の頃から、童話や童謡を盛んに創作し始めた。
(『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』20ページ 新美南吉 より)
その後、半田小学校の代用教員をしながら、復刊した児童雑誌:『赤い鳥』に投稿。童話4編、童謡23編が掲載されます。
上京して東京外国語学校を卒業してからは、安城高等女学校で教員などの仕事をしながら、数々の作品を発表し続けました。
作品:1,500を超える作品を残した
(前略)童話の他、童謡、小説、戯曲、詩、俳句、短歌など、千五百を超える作品を残した。
それは、創作を始めたのが早かったおかげといえよう。
(『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』20ページ 新美南吉 より)
その他の代表作の一部
当サイトでご紹介させていただいたその他の代表作の一覧です。
作風:善意溢れる詩情を讃えた作
庶民の子どもの生活や喜び、悲しみを、物語のなかにたくみにとけこませて、ユーモアのある独特な語りくちで、清潔で善意あふれる詩情をたたえた作である。
(『学習人物事典』332ページ より)
評価:1960年代に評価され始めた
生前にはあまりみとめられなかったが、1960年代にいたって評価されはじめ、『新美南吉全集』全8巻が出版された。
(『学習人物事典』332ページ より)
『花のき村と盗人たち』の感想
最後は読んだ感想です。
温かさが詰まった童話でした
一言でいうと、『温かさが詰まった童話』でした。
まずこの童話のあらすじは、盗人のお頭を中心に進んでいきます。
しかし、言うまでもなく、盗人は決して善い身分ではありません。
お頭自身も人から蔑まれて生きてきたようで、当初は周りからの優しさや温もりを知らない様子でした。
ですが、この童話ではそんなお頭が生まれてはじめての優しさに触れることにより、善い人間であろうと決意するまでが描かれています。
『誰もが自分を信じてくれる存在がいる』ということを実感させてくれるかのような、温かさがそこにはあった気がしています。
『花のき村と盗人たち』あらすじと感想まとめ
童話:『花のき村と盗人たち』は、ある盗人が平和な村を訪れたことにより、人として大切なことに気づかされていく物語でした。
読み終わる頃には、何か優しさや温かさのようなものが感じられるかも…しれません。少なくとも自分はそうでした。