【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】
童話:『牛をつないだ椿の木』のご紹介です。
あらすじは読み聞かせができるようにまとめています。参考にして下さいませ。
- 『牛をつないだ椿の木』のあらすじ
- 読み終わった感想
- 参考文献
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『牛をつないだ椿の木』のあらすじ
まずはあらすじと作者紹介です。
物語:旅人のため?それとも自分のため?
山道の脇の椿の若木の根元に、利助さんが牛をつなぎ、海蔵さんは人力車を置いて、山の奥へと湧き水を飲みに行きました。
冷たい水をたっぷり飲んで戻ってくると、牛が椿の葉をみんな食べてしまっていて、この土地の地主がかんかんに怒っています。
海蔵さんは思いました。
「もっと道の近くに水飲み場があれば、たくさんの人たちが助かって良いのに…」
普通の井戸なら三十円*あればつくれるそうですが、海蔵さんの家は貧しく、とてもそんな大金は出せません。
海蔵さんは利助さんに相談しました。
ですが、利助さんはみんなのためにお金を出す気はまったくないようです。
そこで翌日、海蔵さんは椿の木の下に、賽銭箱のようなものを用意します。
札にはこう書いておきました。
『ここに井戸を掘って旅人に飲んでもらおうと思います。志のある方は一銭*でも五厘*でも入れて下さい』
ところが、誰もお金を入れてはくれません。
海蔵さんは、一人で頑張るしかないと覚悟を決め、お菓子を買うのも我慢して、ひたすら節約を続けました。
それから二年経ち、ようやく井戸をつくるお金が貯まります。
しかし、地主は井戸を掘ることを許可してくれません。
海蔵さんが何度目かのお願いに地主の家を訪ねると、地主の老人は、しゃっくりが止まらず、体が弱って床についていました。
帰りがけ、老人の息子が来てこう言いました。
「もう間もなく、頑固な親父が死んで、私の代になったら、井戸を掘ることを認めてあげましょう」
海蔵さんは、内心喜びました。
ところが、海蔵さんは家に帰って母親にその話をしたところ、次のことを指摘されます。
「自分のことばかり考えて、人が死ぬのを待ち望むなど悪いことだ」
海蔵さんは、それを聞いてはっとしました。
翌朝、海蔵さんは再び地主の家へ行き、正直に自分の気持ちを話します。
手をついて老人に謝りました。
すると老人は、そんな海蔵さんの立派な心持ちに感心し、井戸を掘ることを認めてくれました。
しかも、「もし費用が足りなかったら自分が出してあげる」とまで言ってくれました。
こうして、椿の木のそばには新しい井戸ができました。
学校帰りの子供が美味しそうに水を飲んでいるのを見て、海蔵さんも水を飲みながら思います。
「もう思い残すことはない。こんな小さな仕事だが、人のためになることを残すことができたのだから」
その後、海蔵さんは戦争に行き、そのまま帰って来ませんでした。
ですが、海蔵さんがした仕事は、今でも生き続けています。
道で疲れた人々の喉を潤し、元気を与えているのです。
そして人々はまた、道を進んで行くのであります。
(おわり)
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[用語の説明]
*三十円:現在の価値で約60万円
*一銭:現在の価値で約200円
*五厘:現在の価値で約10円
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作者:新美南吉
作者:新美南吉(1913~1943年)
現在の愛知県半田市に生まれた後、児童文学作家として活躍。
子供の頃から創作活動に意欲的で、半田中学校に在学していた14歳の頃から、童話や童謡、小説、詩、俳句、劇作などの創作をしていました。
十四歳の頃から、童話や童謡を盛んに創作し始めた。
(『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』20ページ 新美南吉 より)
その後、半田小学校の代用教員をしながら、復刊した児童雑誌:『赤い鳥』に投稿。童話4編、童謡23編が掲載されます。
上京して東京外国語学校を卒業してからは、安城高等女学校で教員などの仕事をしながら、数々の作品を発表し続けました。
作品:1,500を超える作品を残した
(前略)童話の他、童謡、小説、戯曲、詩、俳句、短歌など、千五百を超える作品を残した。
それは、創作を始めたのが早かったおかげといえよう。
(『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』20ページ 新美南吉 より)
その他の代表作の一部
当サイトでご紹介させていただいたその他の代表作の一覧です。
作風:善意溢れる詩情を讃えた作
庶民の子どもの生活や喜び、悲しみを、物語のなかにたくみにとけこませて、ユーモアのある独特な語りくちで、清潔で善意あふれる詩情をたたえた作である。
(『学習人物事典』332ページ より)
評価:1960年代に評価され始めた
生前にはあまりみとめられなかったが、1960年代にいたって評価されはじめ、『新美南吉全集』全8巻が出版された。
(『学習人物事典』332ページ より)
『牛をつないだ椿の木』への感想
最後は感想です。
見失ってしまいやすいことに気づかせてくれる物語でした
かつてノーベル物理学賞を受賞した物理学者:アインシュタインは、学生からの「人間は何のために生きているのですか?」という問いに対し、こう答えたと言われています。
「他人の役に立つためです。そんなことがわからないんですか?」
個人的にこの童話は、そんな『人が見失ってしまいやすいことに気づかせてくれる物語』だったように思いました。
童話に登場する海蔵は、母からの助言をきっかけに、「自分の目的のため、他人の不幸を願うべきでない…」とのことに気づきます。
そこで海蔵は地主に、「井戸をつくることでたくさんの人を助けたい…!」との正直な気持ちを伝えたことなどで、停滞していた物事が好転していきました。
もちろん現実にはこの童話のようにうまく物事が好転するとは言い切れません。
ですが、少なくとも自分はこの童話を通じて、そんな人が見落としがち…もしくは見失いやすいことに改めて気づかされた気がしています。
『牛をつないだ椿の木』あらすじと感想まとめ
童話:『牛をつないだ椿の木』は、登場人物の海蔵が、旅人のために水飲み場をつくろうと尽力するあらすじです。
とはいえ、そのあらすじは決して一義的なものではなく、人の価値観のようなものが問われるかのような内容だったように感じました。