世界的に有名な心理学実験:『ミルグラム実験』のまとめです。
実験のポイントが以下の順番にゼロからでもわかる内容となっています。
- 実験目的
- 実験内容
- 実験結果
- 問題点
- 参考文献
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『ミルグラム実験』の前提内容
まずは実験の前提となる内容です。
心理学者:スタンレー・ミルグラムが実施
実験を行ったのは、アメリカの心理学者:スタンレー・ミルグラムでした。
『権威に服従する人間の心理を知ること』が実験の目的だった
ミルグラムが実験をした目的には、『権威に服従する人間の心理を知ること』があったようです。
(前略)ミルグラムは権威に服従する人間の心理を探求するための実験に着手した。
(『社会心理学』362ページより)
別名:アイヒマン実験
ミルグラム実験は『アイヒマン実験』とも呼ばれています。
これは裁判でホロコーストの責任を問われたアイヒマンが、自身は職務を忠実に遂行したに過ぎず、平凡な人間であると主張したことに由来しています。
1961年:イェール大学の地下が舞台
実験は1961年にアメリカの名門イェール大学の地下で行われました。
20歳~50歳の様々な職業の人々が、報酬付きの広告で集められる
実験には報酬付きの広告によって20歳~50歳の人々が集められ、学校教師やエンジニア、郵便局員、セールスマンなど、それぞれが様々な職業に就いていました。
『記憶と学習における科学的な研究』の名目で実験は行われた
実験参加者には『記憶と学習における科学的な研究』という名目が伝えられます。
実験は一度に3人が参加
実験は1セットごとにそれぞれの役割を持った3人が参加する形をとりました。役割は次の通りです。
[1]教師役
1人は『教師役』です。
[2]生徒役
もう1人は『生徒役』。
[3]実験者役
そして最後の1人は『実験者役』となります。
実験者役は教師役に、より“権威があることを印象付ける”ため、白衣を着用しました。
『ミルグラム実験』の流れ
実験の流れです。
<1>まずは教師役が生徒役に問題を出題
実験ではまず教師役が、電気椅子に拘束された生徒役に問題を出題。
<2>生徒役はその問題の答えを間違えたら、”罰”として教師役から電気ショックを与えられる
そして生徒役には問題に間違えるたびに、”罰”として教師役から電気ショックが与えられました。
※教師役はあらかじめ軽微な電気ショックを自分で体感済
<3>さらに実験者役は生徒役が間違えるたび、教師役に電気ショックのレベルを上げたうえでの実験の続行を命令
さらに教師役は実験者役から、生徒役が問題に間違えるたびに電気ショックのレベルを上げたうえで実験を続行することを命令されます。
※電気ショック送電装置には、電圧レバーごとに危険度が表示されていた
このとき、実験者役は以下のような言葉で教師役に命令しています。
- 続けて下さい
- 実験にはあなたの続行が必要です
- あなたが続けることが絶対に必要です
- 他に選択肢はありません。続けなければいけません
※電気ショックのレベルは15ボルトずつ、最大は致死レベルに相当する450ボルトまでの30段階が用意されていた
なお、電気ショックのレベルは15ボルトから、致死レベルに相当する最大450ボルトの30段階が用意されていました。
※だが、実際は電気ショックは”嘘”で、生徒役と実験者役は演技だった
しかし、実験で使われた電気ショック送電装置はすべてが”ニセモノ”。
実際は生徒役に電気ショックは流されておらず、生徒役の悲鳴などはすべて”演技”によるものでした。
- 苦痛を訴える絶叫
- うめき声
- 不平不満
- 突然の沈黙
※生徒役は実験前に入念な演技指導を受けていた
また実験者役も実験中は”権威があるかのような”身だしなみや言動をしていましたが、こちらも生徒役と同様にニセモノによる演技でした。
『ミルグラム実験』の実験結果
実験結果です。
40名中26名が致死レベルの電気ショックを与えるまで実験を続行
最終的に実験では、教師役の40名中26名が致死レベルの電気ショック(最大レベルの450ボルト)を続行。
300ボルト以上の電気ショックを与えるまで実験を中止する者は一人も現れませんでした。
- 40名中26名が致死レベル(最大レベルの450ボルト)の電気ショックを与えるまで実験を続行
- 少なくとも全員が300ボルト以上の電気ショックを与えるまで続行
多くの教師役は、実験を続行することに苦悩し、ためらいを覚えたといいます。
震えや発汗といった、緊張や苦痛の兆候を見せたこともあったようです。
しかし、それでも多くの教師役は、自身に与えられた役割に忠実に従い続けました。
精神科医らの予想を大きく超えた
実験前には精神科医や教師、学生らに、実験結果の予想がなされていました。
実験で最大レベルの電気ショックが使われると予想する人はごく少数でした。
【結論】人は想像以上に権威に弱く、服従してしまう可能性がある
実験が明らかにしたことは『人は想像以上に権威に弱く、服従してしまう可能性がある』ことです。
生徒役に電気ショックを与えていた教師役は、実験を中止することで何らかの罰があったわけではありません。
しかし、“名門イェール大学の学術研究”という権威を前にして、多くの人は実験を無理矢理にでも中止することができませんでした。
[重要事項]”責任の所在”も影響?
またこの実験結果には見逃せないポイントとして、権威だけではなく、“責任の所在”も影響しているという指摘があります。
これは電気ショックを生徒役に与えた教師役には、“罰が課せられていたわけではなく”、さらには“実験者役の命令によって、教師役は自身の責任を放棄している可能性”があることが理由です。
- 教師役に罰は課せられていなかった
- 教師役が責任を放棄しまいかねない実験者役の命令があった
- 続けて下さい
- 実験にはあなたの続行が必要です
- あなたが続けることが絶対に必要です
- 他に選択肢はありません。続けなければいけません
つまりもし責任の所在が教師役に明確に設けられていれば、実験の結果はまた違っていたかもしれないという指摘になります。
2006年の再現実験でも類似した結果が報告
実験から45年経った2006年には、再現実験が行われました。
再現実験では、ミルグラム実験の一部(第五実験にあたる音声フィードバックの実験)が再現(Burger, J.M. 2009 Replicating Milgram. Would people still obey today? American Psychologist, 64,1-11.)。
結果はミルグラム実験をおおむね支持することとなりました。
『ミルグラム実験』の実験後の影響
最後は実験後の影響についてです。大局的なことのみご紹介させていただきます。
倫理面の批判
言うまでもなく倫理面では多くの批判が寄せられています。
『スタンフォード監獄実験』でも同様の批判はありましたが、ミルグラム実験の場合は、実験自体の衝撃度以外にも、実験参加者へのケアが不十分だったとの指摘もありました。
またそれ以外には、実験が”いじめ”の助長につながりかねないという感想を持つ人もいたようです。
心理学の代表的な実験の1つとなる
ミルグラム実験は心理学の有名な実験の1つに数えられるまでになりました。
特に社会心理学の本では取り上げることが多く、論文でもこれまでに多くの引用がなされています。
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しかし、一部では実験があまりにも衝撃的すぎることと、既存の学説との整合性がとりにくいことを理由に、掲載を見送る教科書もあったようです。
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ミルグラム実験の結論と考察
人は誰もが権威に服従する可能性がある。
責任の所在や程度も関係があるのかもしれない。
少なくともミルグラム実験は、社会的制約の中で生きる人間の心理を、生々しくも浮き彫りにした実験だった。
それでは。
参考文献
ページをつくるにあたり、大いに参考にさせていただきました。
ありがとうございました。
>>服従実験とは何だったのかースタンレー・ミルグラムの生涯と遺産
・Milgram, S. 1963 Behavioral study of obedience. Journal of Abnormal and Social Psychology, 67, 371-378.
・Burger, J.M. 2009 Replicating Milgram. Would people still obey today? American Psychologist, 64,1-11.
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