とある保護者
【公文式のまとめページ】今まで伝えてきたすべて
トモヤ
事実として、公文の算数には図形問題が一切出題されません。
文章問題はまったく出題されないわけではないものの、ほとんど解くことはありません。問題の9割は計算問題となっているからです。
そこで今回は、以下についてお伝えさせていただければと思います。公文式への理解を深めるきっかけとして下さいませ。
- 【証拠アリ】公文の算数に図形と文章問題が出題されない歴史的な理由
- 【あえての批判】それでも疑問に感じること
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公文の算数に図形・文章問題がない歴史的背景のすべて
それではさっそく事実として、公文の算数に図形・文章問題がほとんど出題されない歴史的背景について、時系列にご紹介させていただきます。
公文式創設者:公文 公さんの考えがきっかけ
事の発端は、公文式創設者:公文 公(くもん とおる)さんです。公文 公さんは自伝のなかで、自身の考えを次のように話しています。
何度も言いますが、ぼくの教材はすべて計算能力を高めることに焦点を絞っています。
(『やってみよう』193ページより)
ぼくは「公文式」を始めて以来、口を酸っぱくして、計算こそ大事なのだ、うちでは計算を教えるのだ、と言い続けてきました。
(『やってみよう』222ページより)
公文 公さんは次のようにも話します。
公文式とはどういうものですか、とよく聞かれます。
いろいろな説明の仕方がありますが、その一つとしてぼくは、「あれもこれも教えるというのではなく、何を教えないかということを大事にして、あとは学校に任せる教育法です」と答えます。
(『やってみよう』246ページより)
つまり公文にとって、この『教えないこと』の一部が、『算数の図形・文章問題』ということです。この考えは現在でも公文式の理念の1つとなっています。
『計算さえできれば、図形や文章問題は自然とできるようになる』
その理由については、公文式創設者:公文 公さんは以下のように説明します。
もし子供が学年相当より二年ないし三年進んだ計算能力を身につけた時のことを考えてみてください。
一年生の子供が四年生の計算ができるとすれば、一年生や二年生の応用問題などは簡単に解けることになるのですが、これがなかなか理解してもらえないのです。
(『やってみよう』221ページより)
つまり公文 公さんは、『計算さえできるようになれば、他の図形や文章問題は自然とできるようになる』という考えを持っていたということです。
その考えは現在の公文式算数にも反映されています。
教育ジャーナリストのおおた としまささんは、このことについて、自著で以下のようにまとめています。
創始者の公文公はもともと高校の数学教師で、代数系の計算力さえ高めておけば、文章題や図形問題は自ずとできるようになるという信念をもっていた。
そこであえて文章題や図形問題を捨て、計算能力を高めることに特化した教材を開発したのだ。
(『なぜ、東大生の3人に1人は公文式なのか?』58ページより)
保護者や公文式内部から上がった強い反発
しかしながら、公文式創設者:公文 公さんは自伝のなかで、以上のような自身の考えには、公文式創立当初から強い反発があったことも明かしています。
そして次第にその反発は、保護者だけでなく、公文式の内部からも強まることとなったようです。
今でも「公文式の算数・数学は計算だけですか」という人が時どきいます。
数学の力をつけるためには、計算以外の「何か」が必要ではないかと思っている人が多いようですね。
しかし計算ができるということが、数学の学力そのものなのです。それは、学年相当より二、三学年以上高い計算力を持っている生徒を見れば、すぐ分かることです。
(『やってみよう』193ページより)
規模が大きくなると理念を浸透させるのが難しくなる。
特に「本当に計算だけでいいのか。文章題や幾何はやらなくていいのか」という疑問の声が指導者の中からも上がってくるようになる。
そこで始めたのが指導者研修会だ。
公は口を酸っぱくして「2~3学年先の計算ができれば、自分の学年の応用問題は簡単に解けるのだ」と伝えた。
(『なぜ、東大生の3人に1人は公文式なのか?』107ページより)
1970年前後:公文式算数に図形と文章問題を試験的に導入
しかし、ついに多くの反発をきっかけとして、公文 公さんは、試験的に公文式算数に図形・文章問題を導入することとなります。このことは今ではあまり知られていないかもしれません。
一方で「公文式に通っている子供は文章題や図形問題が苦手」という悪評をよく聞く。
「文章題や図形問題を解けるようにしてほしい」という保護者からの要望も多い。
あまりに世間からの要望が強く、組織の内部からもその必要性を訴える声が高まったので、1970年前後には実際に文章題や図形問題に関する教材を作成したことがあった。
(『なぜ、東大生の3人に1人は公文式なのか?』58ページより)
結果は大失敗…現場が混乱し、現在に至る
試験的とはいえ、多くの人の声に応え、公文式算数に図形・文章問題が導入されたわけですが…結果は失敗に終わります。
しかし結果は明らかな失敗だった。
文章題や図形問題を教材に組み込んだとたん、子供たちの自学自習のスタイルが崩れてしまい、現場は混乱を極めたのだ。
(『なぜ、東大生の3人に1人は公文式なのか?』58、59ページより)
この理由は公式には明らかにされていませんが、どうやら『公文式学習の特徴には、図形・文章問題は合わなかった』ということのようです。
【公文と塾の違い】公文と進学塾で講師だった自分がお伝えします【どっちが良い?】
紆余曲折を経て公文式で強まった『図形・文章問題不要論』
そしてこれら一連の出来事は公文式にとって幸か不幸か、現在でも1つの戒めとなっています。
公文教育研究会の社内に掲示されている公文式の教材発展の樹形図には、この失敗が今でも明記されている。
2度と同じ失敗をくり返さないようにという戒めだ。
(『なぜ、東大生の3人に1人は公文式なのか?』59ページより)
とはいえ、公文に対しては現在でも、算数に図形・文章問題の導入を要望する声は少なくありません。
自分も公文や進学塾で講師をしていたとき、保護者から何度も耳にしたことがあります。
しかし、それでも公文式が依然として算数に図形・文章問題を導入しない理由には、以上のような歴史的な背景が戒めとなっているからというわけです。
そしてそのことは、公文式創設者:公文 公さんが、自身の考えを強めるきっかけにもなったようです。
創始者は勝ち誇ったように失敗を認めた。
そうなるとわかっていたから、あえて計算問題に特化した教育プログラムを設計していたのだ。
(『なぜ、東大生の3人に1人は公文式なのか?』59ページより)
以下のすべては公文 公さんが自伝で語った言葉となります。
子供は毎日学校へ行って勉強しますので、学校でやるのと同じことを家庭でもさせるのはむだです。
(『やってみよう』246ページより)
子供の学力を伸ばそうと考えるのなら、加減乗除の基本的な計算のやり方を教え、それをスピーディに、しかも正確にできるように、計算練習を積み重ねさせることが大切なのです。
(『やってみよう』193ページより)
「計算だけ」とは言いますが、その計算がいかに大切か、これは今でも一般にはよく理解されていません。
(『やってみよう』61ページより)
ぼくが相談を受けた親の子供たちは例外なく、ぼくが与えた計算練習で短期間に成績を上げていきました。
(『やってみよう』196ページより)
以上が公文の算数に図形・文章問題がほとんど出題されない歴史的背景のすべてとなります。
公文の算数に図形・文章問題がないことへの3つの強い疑問
といっても、以上のことは、個人的に納得できないことがいくつかあるのも事実です。参考までにまとめておきます。
<1>実際に図形・文章問題を解かないとできるようにならない子供もいた
まずこれは公文で講師をしていた自分の経験によるものですが、『たとえ公文の算数で3学年以上先取り学習をしていたとしても、たとえ読解力があったとしても、それだけですべての子供が図形・文章問題を解けるようになるわけではない』という事実です。
このことは、公文式教室を経営している自分の知人や、他の教室の保護者の方々からも同じようなことを聞きます。一人や二人ではありません。
とはいえ、繰り返す通り、公文式創設者:公文 公さんは生前、以下のように話しています。
もし子供が学年相当より二年ないし三年進んだ計算能力を身につけた時のことを考えてみてください。
一年生の子供が四年生の計算ができるとすれば、一年生や二年生の応用問題などは簡単に解けることになるのですが、これがなかなか理解してもらえないのです。
(『やってみよう』221ページより)
公文 公さんからすると、あくまで『計算さえできるようになれば、図形や文章問題は自然とできるようになる』という考えとのこと。
また当の公文式も、公文 公さんに比べると、ややオブラートに包んだ言い方ではありますが、くもん出版の本で以下のように述べています。
自分の学年より2学年分、3学年分…と先の内容に自習で進んだ小学生の子どもたちを見ると、学年相当の図形の問題であれば、多くの時間をかけなくても自分で教科書などから学んでいくことができるようです。
(『公文式がわかる』93ページより)
しかし、これらの主張はどこまでいっても、公文 公さんならびに公文式の経験則の域を出ていません。
少なくとも、これも自分の経験的なことにはなりますが、公文式が図形・文章問題をほとんど導入しないことについては、現在でも批判的に考えている方が少なくないのが現実です。
その理由は何よりも、『計算さえできれば、図形や文章問題はできるようになる』ということが、現実問題、すべての子供に当てはまっていないことの何よりの証拠なのではないでしょうか。
<2>図形・文章問題が不要であることを記す証拠が一切ない
もちろん公文式創設者:公文 公さんではなく、公文式自体が、『計算さえできるようになれば、図形や文章問題は自然とできるようになる』ことを証明するデータを持っている可能性はあります。
しかしながら、これも自分が知る限りではありますが、公文式がこれらのことを裏付けるデータを公表しているところは一切見たことがありません。
もしこの手の主張に自信があるのなら、もし証拠となるデータがあるのなら、それは一般に公開することが誠実だと個人的には思います。
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とはいえ、仮に証拠となるデータがあったとしても、『計算さえできるようになれば、図形や文章問題は自然とできるようになる』というレベルの因果関係を高い確度で裏付けることは簡単ではありません。
まずエビデンスレベルだけでいうのなら、RCTで二重盲検法を導入しなければ、これらの因果関係を証明するには十分ではないと考えます。
もちろん教育の世界でそういった研究法が倫理上、とても難しいことは重々理解しています。
しかし、ここで言いたいのは、仮に公文式がこれらの因果関係を証明するデータを持っていると主張したとしても、それがたとえば単なる観察研究によるものであったとするならば、因果関係を十分に証明するデータにはなり得ません。
つまり現実問題、『計算さえできるようになれば、図形や文章問題は自然とできるようになる』ことを証明する十分に根拠のあるデータを得ることは難しいので、これらの因果関係は成り立たないということです。悪魔の証明のようなものかもしれません。
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<3>旧態依然とした体質も影響しているのでは?
またこれも自分の推測の域を出ませんが、公文式がいまだに算数に図形・文章問題を導入しない理由には、歴史的な背景だけでなく、『企業としての体質も少なからず影響しているのでは?』と感じます。
以下は公文式教室で30年以上指導者をしているベテラン:竹田正子さん(仮名)が思う、公文式の改善点ならびに体質についてです。
「指導方法や教材の内容については今でも常に見直しを行っています。それは今後も継続していくべきでしょう。
それ以外の部分で言えば、生徒募集の手段が未だに新聞のちらしや広告媒体といった旧態依然としたものに頼りがちであるところは問題かと思います。
公文グループは意外と泥臭いんです(笑)。
(『なぜ、東大生の3人に1人は公文式なのか?』86ページより)
これらの内容が正しいかどうかはさておき、公文式に前例踏襲な一面が強くあることは強く感じます。
といっても、そういった公文式の一面は確固たる信念を持っていることの裏返しでもあると思うので、個人的には好きな部分でもあるのですが、何かと今までのやり方を変えにくい面もあるのかなとも思います。
そもそもですが、公文の算数の教材プリントは、マイナーチェンジが繰り返されているとはいえ、数十年前から大きく変わっていません。
自分が公文で講師をしていたときに10年以上前の公文式算数のプリントを見る機会がありましたが、内容はほぼほぼ今と変わっていませんでした。
公文式からすると、『変わっている』と主張するかもしれませんが…自分が公文の他に講師をしていた進学塾では毎年のように教材の大きな見直しがありましたし、他塾でもそういったことをしているところはあります。
むしろ他塾の教材に目を向ければ、公文式教材がいかに変わっていないかがよくわかります。
繰り返す通り、これらの公文式の体質は個人的には好印象に感じる部分はあるものの、そういった体質が算数の図形・文章問題の導入に影響をあたえている可能性も否定できないのかなと思います。
公文の算数の図形と文章問題まとめ
事実として、公文の算数には、図形や文章問題がほとんど出題されません。
その歴史的背景などを考えると、これからもそのことは変わらないかと思います。
そのため、もしご自身のお子さんに算数の図形と文章問題への理解を直接深めて欲しいのなら、公文以外を検討すべきでしょう。
これは公文に限ったことではありませんが、誰しもに万能な塾というのは存在しないからです。
それでは。
便宜上、算数・数学に限って言えば、公文式とは、子供の能力のごくごく一部である「計算力」を効率よく向上する目的に特化して作られた究極的にシンプルな「専用ツール」である。
その以上でもそれ以下でもない。
(『なぜ、東大生の3人に1人は公文式なのか?』189ページより)
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