『スタンフォード監獄実験』をわかりやすく【大学で心理学を勉強した自分がまとめてみた】

刑務所の暗い側面

世界的に有名な心理学実験:『スタンフォード監獄実験』のまとめです。

実験のポイントが以下の順番にイチからわかる内容となっています。

このページでわかること
  1. 実験目的
  2. 実験内容
  3. 実験結果
  4. 問題点
  5. 参考文献

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『スタンフォード監獄実験』は「誰が何を目的に行われたのか?」

まずは実験の前提内容です。

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心理学者:フィリップ・ジンバルドーが実施

実験はアメリカの心理学者:フィリップ・ジンバルドーによって実施されました。

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『役割やルール、状況などの”力”に注目すること』を目的としていた

ジンバルドーは、スタンフォード監獄実験を実施した目的を、次のように話しています。

Zimbardo’s primary reason for conducting the experiment was to focus on the power of roles, rules, symbols, group identity and situational validation of behavior that generally would repulse ordinary individuals.

『Stanford News』The Stanford Prison Experiment: Still powerful after all these years

つまりわかりやすく言えば、『普通なら拒絶する役割やルール、状況などの”力”に注目すること』こそが、ジンバルドーが実験をした理由でした。

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『スタンフォード監獄実験』の実験内容

実験内容です。

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1971年:スタンフォード大学の地下に造られた『模擬刑務所』が舞台

実験は1971年の夏。スタンフォード大学の地下に造られた『模擬刑務所』で行われました。

模擬刑務所はリアルさが追求され、『独房は人が3人入れるサイズ』、『灯りは仄暗く』といった工夫がなされました。

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実験対象の大学生を2つの役割に分ける

実験の対象は、一般的な大学生です。

広告*を使って集めた約70名の男子大学生から、健康で犯罪歴のない20数名が複数の事前審査によって選ばれました。

*大学生たちには全員に同じ報酬が支払われた

その後、大学生たちはランダムかつ半数ごとに2つの役割に分けられます

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<1>囚人役

まず片方は『囚人役』です。模擬刑務所に閉じ込められる役割になります。

囚人

模擬刑務所と同様、ここでもリアルさが追求され、囚人役には以下のような見た目や状況の工夫がなされました。

囚人役に強制されたこと
  1. 囚人らしい衣服の着用
  2. 足には南京錠付きの鎖を着用
  3. 名前ではなく番号で呼ばれること
  4. トイレに行くときは看守役の許可が必要

なお、囚人役が元々着ていた衣服は強制的に脱がされたうえで実験終了時まで返却されず、代わりに着用を義務付けられた囚人役の衣服も頭からシラミ駆除剤をかけられ、指紋をとられたうえでの着用だったといいます。

また囚人役に割り当てられた大学生たちは自宅などで”突然”逮捕され、模擬刑務所に連れていかれるといった演出もなされました。

これは当時の大学内で警察活動を専門としていた構内警察と協働した演出で、本物のパトカーと警官を使って逮捕させるという徹底振りでした。

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<2>看守役

そしてもう片方は『看守役』です。さきの囚人役を監視する役割となります。

ヤクザ

こちらも以下のようなリアルさが追求されました。

看守役に強制されたこと
  1. 看守に見える制服の着用
  2. サングラスの着用
  3. 警棒の携帯
  4. 手錠の所持
  5. 鍵の所持
  6. 笛の所持

看守役に用意された制服は、軍の放出品を販売する店から取り寄せた、軍服用の衣装でした。

さらに看守役には実験上の注意点として、『囚人役に危害を加えないこと』や『法と秩序を守ること』、『囚人役に飲食物を与えないこと』などを遵守するよう言い渡されました。

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14日間それぞれの役割を”演じて”もらう…予定だった

実験期間は当初14日を予定していました。

実験はスタンフォードの模擬刑務所で囚人役、看守役らにそれぞれの役割を”演じて”もらう形でスタートします。

なお、その間、ジンバルドーら研究者は、実験の様子を逐一観察できる体制をとっていました。

施設内には経過観察用の監視カメラが複数台設置されていたといいます。

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『スタンフォード監獄実験』の実験結果

実験は初日こそ問題なく進んだものの、早い段階で動き始めます。ポイントを順を追ってご紹介させていただきます。

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囚人役が反発

まず実験開始2日間からは、看守役の行き過ぎた監視と状況に囚人役たちが反発。

囚人役たちは待遇改善を求めて立てこもり事件を起こし、反発的な態度を見せ始めます。

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看守役の行動がエスカレート

しかし、それに反して看守役の行動は徐々にエスカレート。

反発的な態度を見せた囚人役に腕立て伏せなどの”理不尽な罰”を与えるようになり、高圧的な態度を強めるようになります。

さきの立てこもり事件の首謀者は独房送りにされ、囚人役たちを権力により鎮圧しました。

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囚人役のメンタルが壊れ始める

その影響からか、囚人役たちのメンタルには明らかな不調が生じ始めます。

一部の囚人役は無気力さや不安に似た症状を見せるようになりました。

突然泣き出してしまう者や、疑心暗鬼を強める者もいたようです。

また一部の囚人役は看守役の罰を恐れた影響からか、看守役や実験そのものに従順な態度を見せるようになったともいいます。

実際、この実験中、囚人役は友人や家族との面会が可能となっていたものの、そこで実験の異常性を訴える者はほとんどいなかったそうです。

看守役の行動はさらにエスカレート

しかしながら、そんな状況でもあろうことか看守役の行動や言動はさらにエスカレート。

看守役は囚人役に暴言を吐くようになり、より支配的ともいえる振る舞いを強め、理不尽な命令を次々と行うようになりました。

なお、実際に行われた理不尽な命令の例は以下の通りです。

理不尽な命令の例
  1. 素手でのトイレ掃除
  2. バケツへの排便を他の囚人役が見ている前で強要
  3. 命令違反という口実による独房送り
  4. 荷物を伴った複数の独房移動を意味もなく繰り返させる
  5. 囚人役同士でのケンカの強要
  6. 茨に放り込んだ毛布から棘をすべて抜かせる

そして最終的には実験前に禁止されていたはずの”暴力行為”に及ぶ事態にまで発展。

状況は混乱を極め、収拾のつかない事態にまで陥ってしまいます。

実験を中止するつもりがなかったジンバルドー

なお、既にこの段階で研究者たちの間では、実験を疑問視する声が少なからず挙がっていました。

しかし、当のジンバルドーは実験を中止することはしませんでした。

それどころかジンバルドーは、実験に耐えられなくなった囚人役たちが集団脱走を計画している噂を知るや、近所の警察にそのことを通報。

その囚人役たちを本物の刑務所へ移送することを依頼するなど、常軌を逸した言動をとったといいます。

もちろんこの依頼を警察が受け入れることはありませんでした。

ですが、その決定にジンバルドーは納得がいかず、「刑務所同士で連携ができないのか!」などと怒鳴り散らしたといわれています。

さらにジンバルドーは実験中の暴力行為が表沙汰になることを恐れたのか、外部の者との面会を控えた囚人役に、傷を隠すための化粧をさせるよう看守役へ命令していました。ここまでが実験開始からわずか3日以内での出来事です。

6日で実験は急遽中止

とはいえ、最終的に14日予定されていた実験は、急遽6日で打ち切りとなります。

きっかけはこの実験の視察に訪れた心理学者:クリスティーナ・マスラックが、実験の様子を見て問題視したことです。

まずマスラックはジンバルドーに直接進言する形で実験の中止を促し、さらには実験の異常に気づいた実験参加者の保護者と牧師が派遣した弁護士が、実験から5日目に実験中止を願い出たことも影響しました。

余談ながらこの実験の翌年にマスラックはジンバルドーと結婚することとなりますが、彼女は後にこの時の実験の様子にはとてもショックを受けたと明かしています。

そして模擬刑務所は撤去され、実験は幕を閉じました。

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『スタンフォード監獄実験』の2つの問題点

言うまでもなく実験には数多くの問題点が指摘されていますが、ここでは明らかな問題点を2つのみご紹介させていただくこととします。

【1】倫理

まずは『倫理的な問題』です。

これは説明するまでもありませんが、実験は”明らかにやりすぎ”でした。

ジンバルドーに研究者としての理念や信念があったにせよ、実験が常軌を逸していたのは誰の目にも明らかで、倫理的にやるべきだったとはいえません。

When asked about the ethics of such research for a 1976 magazine profile, Zimbardo said that “the ethical point is legitimate insofar as who are you, as an experimenter, to give a person that kind of information about oneself. But my feeling is that that’s the most valuable kind of information that you can have and that certainly a society needs it.”

Stanford News』The Stanford Prison Experiment: Still powerful after all these years)

【2】信憑性

実験結果の信憑性を疑問視する声』もあります。

たとえば、実験では研究者が看守役に“行き過ぎた”要求をしていた可能性や、一部では実験協力者が嘘の演技をしていたなどの“ヤラセ”の問題があったことが指摘されています。

実験は十分に統制されていたとはいえませんでした。

特に2018年度以降に指摘された問題点の数々は、多くのメディアで取り上げられました。

音声記録の流出

そのことを裏付ける証拠の一端が、未発表だった音声記録の流出です。

これはカリフォルニア大学バークレー校のベン・ブルム博士が発表したもので、大きな騒動を呼びました。

なぜなら、その音声記録からは、実験の看守役に対して過剰な行動指示があったことが示唆されていたからです。

さらにブルム博士が当時の実験参加者にインタビューをしたところ、看守役の数名には研究者からの期待に応えようとして、意識的に役割を演じていたことを明かしています。

一方、囚人役の中には実験を抜け出して試験勉強をするために、わざと発狂した演技をした者もいたというから驚きです。

テレビによる宣伝を優先

また元々、この実験はテレビ局を巻き込んで行われていたことでも知られていますが、そのことにも問題の一端があります。

というのも、ジンバルドーはこの実験の開始と同時に、招いたテレビ局に映像を撮影してもらい、実験が終了するとすぐに・・・記者会見を開いたとされています。

その会見の場では、ジンバルドー自身が実験によって明らかになったことなどを解説していますが、そこで語られていた内容は、撮影された映像や実験に参加した人らの証言を元にしたものに過ぎませんでした。

つまり実験データを分析したうえでの解説ではなかったため、そのことに賛否があるのは当然といえそうです。

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ちなみに現在では倫理性の問題などから実験を再現することは難しくなっています。

そのため、倫理性と信憑性の問題は、いわば『あちらを立てればこちらが立たず』なジレンマの関係にもあるともいえるのかもしれません。

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『スタンフォード監獄実験』の、その後の影響

最後は実験後の影響です。

本などの数多くの出版物への掲載

実験の概要はこれまでに数多くの本や漫画などへ掲載が行われました。

心理学はもちろんのこと、倫理学や犯罪学など幅広い分野に取り扱われていることも特徴的です。このことは論文の引用においても同様のことがいえます。

映画化

2015年には実験を題材にした映画が上映されました。

再現度が高い内容となっています。

批判の矛先への指摘と根本的原因

最後はジンバルドー自身による考察です。個人的に興味深い内容でしたので、参考として載せさせていただくこととしました。

(前略)人(や社会、マスコミ、集団)には、残虐な行為をしでかした者を(まわりに悪影響を与える)「腐ったリンゴ」だとして非難する一方で、何の悪意ももたなかった人がシステム(与えられた肩書など)によっては「腐ったリンゴ」のような言動をするようになってしまう現象を無視する傾向がある、としています。

(『AIの心理学』132ページより)

続いては本書の著者による言葉となります。

上記「スタンフォード監獄実験」で強い権力を与えられ変貌していった看守役とアルゴリズムには類似点があります。

どちらも問題の元凶だと見なされやすく、おかげでシステムのより深いところにある根本的原因を見逃す危険性がある、という点です。

(『AIの心理学』132ページより)

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『スタンフォード監獄実験』をわかりやすくのまとめ

『スタンフォード監獄実験』は心理学の有名な実験の1つです。

しかし、実験は倫理的に問題があり、統制された実験とは言えません。

そのため、心理学の側面から学べることは少ないかもしれませんが、少なくとも倫理を考える教材にはなるかもしれません。

それでは。

参考文献

ページをつくるにあたって大いに参考にさせていただきました。

ありがとうございました。

>>『The Lucifer Effect: Understanding How Good People Turn Evil』

>>Stanford Prison Experiment

>>Am Psychol. 2019;74(7)823-839.

・Haney, C., Banks, W. C., & Zimbardo, P. G.(1973)Study of prisoners and guards in a simulated prison. Naval Research Reviews. 9, 1-17. Office of Naval Research.

>>AIの心理学

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