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心理学実験の一つである『吊り橋実験』についてです。
『吊り橋効果』でおなじみの心理学者:ダットンとアーロンによる吊り橋実験の内容を、論文や関連書籍を元に専門用語を極力使わず、誰にでもイチからわかるようにまとめてみました。一つの参考にしていただければと思います。
- 実験内容
- 実験結果
- そのカラクリ
- 吊り橋効果は嘘か?
- 参考文献
タッチ⇒移動する目次
『吊り橋実験』の実験内容
まずは実験内容です。
心理学者:ダットンとアーロンが実施
実験は共に心理学者であるドナルド・ダットン(Donald Dutton)とアーサー・アーロン(Arthur Aron)によって行われました。
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余談ですが、アーサー・アーロンは同じく心理学者のHSP研究の第一人者:エレイン・アーロン(Elaine Aron)とご結婚されます。
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“不安定な吊り橋”と、”頑丈で安定した橋”の上から実験はスタート
実験は“不安定な吊り橋”と、“頑丈で安定した橋”の上のそれぞれで行われました。
なお、2つの橋の特徴は下記の通りです。
【2つの橋の特徴】
橋の構成材料 | 橋の高さ | |
---|---|---|
不安定な吊り橋 | 鉄のケーブルと板 | 約70m |
頑丈で安定した橋 | スギ | 約3m |
(補足事項)スギは一般に建築物に使われる丈夫さがある
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頑丈で安定した橋(統制群)は、不安定な吊り橋(実験群)との比較検証のために用意されています。
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[1]”魅力的な”女性の面接者がそれぞれの橋で男性に面接
実験ではまず、“魅力的な”女性の面接者がそれぞれの橋の上で、18歳~35歳までの計85名の男性に簡単な面接を行いました。
TAT(主題統覚検査)も利用
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面接では、『TAT(Thematic Apperception Test)』という投影法も利用されました。
これは『主題統覚検査』といって、この実験では面接者によって見せられた絵から、男性に物語の作成が求められました。
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(+α)男性の面接者が男性に面接するパターンも実施
なお、面接者は女性だけでなく、”男性の面接者”が男性に面接をする同性のパターンも実施されています。
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男性(統制群)は、女性(実験群)との性差の比較検証のために用意されています。
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[2]面接から得られた回答内容を調査
続いてこれら一連の面接によって得られた回答内容が調査されました。
[3]『面接後にその男性が面接者に電話をかけるかどうか?』も調査
さらに実験では、『面接後にその面接を受けた男性が、面接者に電話をかけるのか?』ということも合わせて調査されました。
そのために面接者は面接後、面接に協力してくれた男性に対して自身の連絡先を渡したうえで、「実験結果の詳細が知りたい場合は電話をして下さいね」とのことを伝えています。
『吊り橋実験』の実験結果
実験結果です。
【結論】『人は感情的に興奮していると、異性への魅力が高まる可能性がある』
結論からいうと、『人は感情的に興奮していると、異性への魅力が高まる可能性がある』ことがわかりました。
理由は大きく分けて2つです。順にご紹介させていただきます。
<理由1>吊り橋で女性に面接された男性の方が、”性的なニュアンスの高い回答”が多かった
まず実験では、不安対な吊り橋で女性の面接者に面接された男性の方が、頑丈で安定した橋でのそれよりも、TATの回答結果などで”性的なニュアンスの高い回答”が多く見られました。これが一つ目の理由です。
<理由2>吊り橋で女性に面接された男性の方が、面接後にその女性に電話をかけることが多かった
また不安定な吊り橋で女性の面接者に面接された男性の方が、面接後にその面接をした女性に電話をかけることも多くなったということが明らかとなりました。
下記の表はその人数の内訳などの一覧となります。
【実験結果の比較の一例】
面接後に電話をかけてきた人数 | 割合 | |
---|---|---|
不安定な吊り橋 | 18人中9人 | 50.0% |
頑丈で安定した橋 | 16人中2人 | 12.5% |
(補足事項)実際に面接をしたのは計85名だったとされているため一見すると上記の人数とは数が合わないが、この理由はおそらく面接自体に応じなかった者がいたためと思われる
(+α)ただし、男性の面接者が男性に面接をした場合、2つの橋における違いは大きくはなかった
さらにこれらの実験結果はあくまで”異性間においてのみ”強くあらわれました。
つまり男性の面接者が男性に面接をした場合だと、異性による場合よりも、違いは大きくなかったということです。
以上が吊り橋実験の実験結果の結論を裏付け得る理由となります。
『吊り橋実験』の心理的カラクリの正体【ダットンとアーロンによる考察】
実験を実施した心理学者:ダットンとアーロンは、吊り橋実験の結果のカラクリを次のように考察しています。
親和欲求
まずは『親和欲求』です。これは『人と一緒にいたい欲求』のようなものとなります。
つまりダットンらは、不安定な吊り橋を渡った人には恐怖感が生じ、それが人恋しさのようなもの(≒親和欲求)を高めたと考察しました。
帰属理論
続いては『帰属理論』です。これは一言でいうと、『物事の原因だとされる現象に着眼する理論』のことです。
つまり不安定な吊り橋を渡っているときの”ドキドキ感”が、”異性への魅力の原因”だと錯覚(帰属)してしまったという考えです。
“吊り橋効果”は嘘か真か?【3つの問題点】
では、俗にいう『吊り橋効果』はどの程度効果があるのでしょうか?
このことについては正直、詳細を挙げ出したらキリがありませんので…ここでは誰にでもわかりやすいことのみに絞って考察させていただくこととします。
注:なお、ここでは”ダットンとアーロンによる”吊り橋実験をテーマとしているため、ここでの内容もあくまで両者の実験を元にした吊り橋効果のみに限ったこととさせていただきます。ご承知おき下さいませ。
【結論】少なくとも一般化はできない
まずこの疑問については結論からいうと、『少なくとも一般化はできない』ということが言えます。
つまり吊り橋効果は嘘とは言い切れないにしても、その効果を一般化して言い切ることはできないということです。
理由は大きく分けて3つあります。
<理由1>面接をしたのは、あくまで”魅力的な”女性
まずこの吊り橋実験では繰り返す通り、実験の面接者に女性(実験群)と男性(統制群)が用意されたうえで実験が行われ、性差においては女性が面接者のときに高い効果があったと結論付けられています。
ですが、その面接をした女性はあくまで”魅力的”であることが条件となっていました。
そのため、これだけの理由でも、吊り橋効果はたとえ女性であれば誰にでも効果があるとはいえないことがわかります。
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(また定義が難しいことかもしれませんが…”魅力的”の定義も十分ではなかったような気もしています…)
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<理由2>実験協力者の性別や年齢、国籍などには偏りがある
また実験協力者にも性別(男性のみ)や年齢(18歳~35歳)、国籍(実験場所やシチュエーションからしておそらくアメリカ国籍の人が多かったと思われる)などに偏りがありました。
よってランダム化などはされていないため、実験協力者の質の影響も、実験結果を歪曲している可能性が高いです。
<理由3>TATの信頼性と妥当性の問題
実験に使用したTATの信頼性や妥当性の問題も見逃せません。
まずTATをはじめとした投影法は、その回答結果を分析する人の主観に影響される側面が根強いです。
言ってしまえば分析する人が変われば、その分析結果もガラリと変わってしまう可能性があります。
さらにTAT自体の根拠も乏しいです。
以上のことから、TATから導き出された結果を一般化することはできません。
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自分はTATをふくめ投影法のすべてを批判する意図はまったくございません。もし気分を害された方がいたら、申し訳ございません…。
この場を借りてお詫び申し上げます。
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吊り橋実験まとめ
人は感情的に興奮していると、異性への魅力が高まる側面がある…のかもしれません。
とはいえ、個人的に世間一般で言われている吊り橋実験ならびに吊り橋効果は歪曲されている面が少なからずあるように感じています。
実験自体はユニークでとても面白いとは思うものの、もしかしたらそれ以上の域を出るものではないのかもしれません。
それでは失礼します。
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余談ながら最後までどうしてもわからなかったのは、「なぜ、ダットンとアーロンの吊り橋実験ならびに吊り橋効果がこれほどまでに、日本で周知されるようになったのか?」ということです…。笑
何かきっかけとなる出来事があったのか…それともアーロン夫妻はHSPの件もふくめてマーケティングがうまいんだろうか…などと考え色々と調べましたが、疑問は解決できませんでした。
そもそも世間に周知されていること自体が自分の思い過ごしの可能性もありますが…もしこのことについて何かご存じの方は、当サイトにご連絡下さるとありがたく思います<(_ _)>
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参考文献
ページをつくるにあたり、大変参考にさせていただきました。
ありがとうございました。
・Dutton, D.G. & Aron, A.P. 1974 Some evidence for heightened sexual attraction under conditions of high anxiety. Journal of Personality and Social Psychology, 30, 510-517.
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