『ニルスのふしぎな旅』あらすじと感想【ノーベル文学賞の受賞者作のスウェーデン名作童話】

ガチョウの世界

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童話:『ニルスのふしぎな旅』のご紹介です。

あらすじは読み聞かせができるようにまとめています。参考にして下さいませ。

このページでわかること
  1. 『ニルスのふしぎな旅』のあらすじ
  2. 考察
  3. 感想
  4. 参考文献

『ニルスのふしぎな旅』のあらすじ

あらすじと作者紹介です。

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物語:いたずら好きの男の子ニルスの成長

ガチョウ

ニルスはべんきょうつだいをしないで、いたずらばかりしているおとこです。

ある、そんなニルスはちいさな妖精ようせいトムテ*に意地いじわるをしたことで、ほう身体からだちいさくされてしまいます。

ちょうどわたどりきたくにへとかうせつでした。

 

せいのガン*のれにさそわれて、ニルスのいえわれているガチョウのモルテンがそらへとがります。

「モルテン!ってはダメだ!!」

ニルスはモルテンのくびきつきましたが、モルテンはニルスをせたまま、空高そらたかがっていきました。

 

ニルスはびとになったことで、動物どうぶつことがわかるようになっていました。

ニルスはモルテンのなかって、ガンのれと一緒いっしょんできます。

ガンのれは、最初さいしょはニルスのことをバカにしていました。

ですが、ニルスがガンをたすけようとキツネにかっていく姿すがたたりするうち、次第しだいにガンたちはニルスのことをなかとしてみとめていきます。

ついにはニルスとガンたちは、おたがいのこころつううようになっていきました。

 

ニルスはたびちゅう、カラスにつかまってられたり、モルテンからちてしまってもうダメだとおもったこともありました。

しかし、なかちからりてピンチをっていくうち、ニルスはそらたびたのしむようになりました。

 

ニルスがたびはじめて半年はんとしほどったじゅう一月いちがつはじめのことです。

ガンのれは、こんみなみへとかいます。

そこでメスのガンと結婚けっこんしたモルテンは、ろくのヒナをれていえかえることにしました。

ニルスもいえなつかしくなりましたが、びとになった姿すがたぞくられたくはありません。

そのため、そっと様子ようすくことにしました。

「おとうさんとおかあさんはげんかなあ…」

すると、おかあさんの大声おおごえこえてきます。

 

「おとうさん!うちのガチョウが、メスのガンとヒナをれてかえってていますよ!」

「それはちょうどいい!くびめていちろう!!」

 

それをいたニルスは大慌おおあわてです。

「おとうさん!おかあさん!おねがいだから、そのガチョウをころさないで!!」

 

いえんだニルスは、ほうけてびとではなく、まえよりもしっかりしたしょうねんになっていました。

「まあ、ニルスなの?ニルス、おかえり!」

かあさんはおおよろこびでニルスをきしめました。

 

あくるあさ、ニルスはちかくの海岸かいがんへときました。

そこにはニルスが一緒いっしょたびをしたガンのれがいました。

ですが、ニルスにはもう、とりことかいできませんでした。

「みんな、ありがとう!みんな、さようなら!!」

空高そらたかんでくガンのれに、ニルスはなんなんびかけました。

(おわり)

朝

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よう説明せつめい

*トムテ:むかしからいえいているちいさな妖精ようせい

*ガン:せつごとに生息せいそくしょうつわたどりのこと

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作者:セルマ・ラーゲルレーブ

作者:セルマ・ラーゲルレーブ(1858~1940年)

スウェーデンの女流小説家。

美しい景色にめぐまれ、伝説の多いベルムランド地方のゆたかな農場に生まれる。

子どものころから本がすきで、14、5歳のころから詩を書いていた。

(『学習人物事典』506ページ より)

1907年に発表した『ニルスのふしぎな旅』は、児童文学のけっ作として、多くの国々の子どもたちに親しまれている。

(『学習人物事典』506ページ より)

本作はラーゲルレーブが、子供たちにスウェーデンの地理を学んでもらうことを目的に書かれたとされています。

なお、ラーゲルレーブの作家活動は、彼女がストックホルムの女子高等師範学校を卒業後、女学校の教師をしながら始まりました。

1891年には『ヨスタ・ベルリング物語』を発表。一躍有名になりました。

その後、1894年に短編小説集:『見えざる絆』を発表と同時に教師は辞め、作家としての生活に入っています。

背景:『自然主義』

以後、かの女は自然主義*の全盛期に、詩情あふれる美しい文章で夢と創造にみちた物語を書いた。

(『学習人物事典』506ページ より)

*自然主義:事実をありのままに直視し、日常における自己の自然な生を描こうとする立場のこと

文学において、古い思想や行動の型にとらわれず、事実をありのままに直視し、日常における自己の自然な生を描こうとする立場。

19世紀末にフランスを中心におこり、日本では、島崎藤村の『破戒』にはじまり、明治後期から広まった。

この立場は、理想と現実の落差が大きくなる中で、いたずらに理想をとなえることの空しさへの反省から生まれたが、赤裸々な人間をとらえようとするあまり、人生の否定面だけを強調する傾向があった。

(『倫理用語集』170ページ 自然主義 より)

評価:『ノーベル文学賞』を受賞

1909年に、女性としてははじめてのノーベル文学賞を受賞した。

(『学習人物事典』506ページ より)

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『ニルスのふしぎな旅』の考察

本作:『ニルスのふしぎな旅』にまつわる考察です。

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注:自分の考察に間違いがないとは言い切れません。

そのため、ここからの情報はあくまで一つの参考として下さいませ。

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『スウェーデンの童話によく登場する”トムテ”』by菱木晃子さん

まずスウェーデン児童文学翻訳家のひしあきらさんによると、本作に登場する『トムテ』というキャラクターは、スウェーデンの童話には馴染み深い存在なんだそうです。

スウェーデンの童話によく出てくるキャラクターに、トロルとトムテがある。

どちらも実在の生き物ではなく、人々の間に伝えられてきた架空のキャラクターである。

(『童話学がわかる』14ページ より)

なお、菱木さんは、そんなトムテの特徴や習性を、次のように解説して下さっています。

(前略)トムテはその家に昔から住んでいる福の神みたいな役目をする小人といえるだろう。

農家や古い家の床下など目立たぬ場所で暮らし、夜間に行動するので、人間がその姿を見ることはまずないが、白いあごひげをはやしたおじいさんというのが一般的なイメージである。

家の番をしたり、家畜や人を守ってくれるトムテに感謝の意を表して、その家の人はクリスマス・イブになると、トムテのためのおかゆを器に入れ、納屋などに置く習慣がある。

逆にトムテを軽んじたり、いじめたりすると、仕返しをされてしまう。

(『童話学がわかる』16ページ より)

スウェーデン児童文学の第一次開花期に広まった

では、トムテがスウェーデンの童話に馴染み深い存在であるとするならば、その理由はどうしてなのでしょう。

そのことについてはまず菱木さんいわく、19世紀後半から20世紀はじめは、スウェーデン児童文学にとっての興隆期だったとのことです。

(前略)十九世紀後半から今世紀*初めにかけてスウェーデンでは多くの童話や再話が作られ、印刷技術の進歩と相まって、新しく刊行された子ども向け雑誌やシリーズ本に挿絵とともに掲載された。

(『童話学がわかる』15ページ より)

*今世紀:『童話学がわかる』の出版が1999年のため、自分は菱木さんの言う”今世紀”が20世紀のことであると解釈しました

童話学がわかる。 【書評】『童話学がわかる。』【童話を国や学問、形式などから考察する独自の一冊】

そしてその時代は、”スウェーデン児童文学の第一次開花期”と呼ばれていたとのこと。

文学史の視点で見ると、作家と画家が一気に発表の場を獲得し、その作品が一般家庭の子どもの手に直接届くようになったこの時代を、スウェーデン児童文学の第一次開花期と呼んでいる。

なかでもバウエル*が活躍した、年一回発行の雑誌はその名も『トムテとトロルの間で(Bland tomtar och troll)』といい、この時代を代表する子ども向け出版物のひとつに数えられる。

(『童話学がわかる』15ページ より)

*バウエル:スウェーデンの画家であるヨン・バウエル(1882~1918年)のこと

つまり文学作品のなかでトムテが活躍していた時代は、スウェーデンの童話が世間からより一層注目されていた時代でもあった。

そのため、そのことがスウェーデンの童話でトムテが馴染み深い存在となった理由の一端だったのかもしれません。

北欧の自然や人々の暮らしと結びついていた

とはいえ、菱木さんいわく、トムテはスウェーデン以外の北欧でも親しまれているとのことです。

(前略)トムテはデンマークやノルウェーではニッセという名前で親しまれている。

(『童話学がわかる』14ページ より)

そしてその理由は、北欧の自然や人々の暮らしも影響していたことを、菱木さんは次のように考察なさっていました。

トムテもまたトロル同様、北欧の自然や人々の暮らしと結びついたキャラクターにちがいない。

北半球の高緯度に位置する北欧では、クリスマスのころは日照時間が極めて少ない。

おまけに寒い。

零下数十度になる日もある。

この時期、寒さと暗さから身を守ってくれる家の大切さを誰もが感じるだろう。

ましてや電気もガスもなかった時代、部屋の隅で赤々と炎が燃えている家が肉体的にも精神的にもどんなにありがたかったことか。

北国の厳しい自然環境の下、その家を守ってくれるトムテの存在を昔の人々が信じていたとしても、それはとても自然なことだったような気がする。

(『童話学がわかる』16ページ より)

(個人的に上記の考察はとても納得…というか、感嘆してしまいました。笑)

ユールトムテとの違い

さらにトムテと混同されやすい存在に、ユールトムテというキャラクターがいるといいます。

これも菱木さんのご解説です。

(前略)トムテと混同されやすいキャラクターにユールトムテがある。

ユールはクリスマスの意味で、ユールトムテとはサンタクロースのことである。

サンタクロースは赤い服を着ている。

最近ではトムテも赤い服を着て描かれることが多く紛らわしいのだが、本来トムテとユールトムテは別のものだった。

十九世紀後半から今世紀初頭にかけて活躍した人気画家イェンニ・ニーストリュームがサンタクロースのような赤い服を着たトムテをたくさん描いたので、それでトムテの赤い服が定着してしまったらしい。

ニーストリュームの絵が評判になった雑誌は『ユールトムテン』Jultomten(「ザ・サンタクロース」という意味)といい、一八九一年に創刊され、一九三四年まで続いた。

先に述べた『トムテとトロルの間で』同様、スウェーデン児童文学の第一次開花期を支えた代表的な雑誌である。

タイトルが示すように、年一回クリスマス前に発行され、童話をはじめ、なぞなぞ、だまし絵、歌、ゲームなどが掲載されていた。

(『童話学がわかる』16ページ より)

(自分はユールトムテのことははじめて知りましたが、とはいえ、たしかに自分もトムテと聞くと、赤のイメージがありました…)

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『小人』の歴史by池田美桜さん

最後はおさらいになりますが、本作に登場したトムテは、魔法を使って主人公のニルスを小人に変えた妖精でした。

白百合女子大学大学院児童文学専攻(当時)のいけおうさんは、『小人』について、次のように解説して下さっています。

人間に似た姿形をした、矮小な超自然的存在。

伝承文学から創作文学まで世界各国の文芸作品で語られるが、その属性・機能・起源・大きさ等は多種多様である。

とくにヨーロッパの文芸作品に多くみられ、それらは近代以降の日本人の小人像形成に多大な影響を与えているものの、すくなびこなのみことや一寸法師など、日本でも古くから独自の小人が語られてきた。

現代の作品では『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる)、『床下の小人たち』(M・ノートン)他。

(『童話学がわかる』163ページ より)

なお、その他で小人が登場する有名作品には、『白雪姫』や『ガリバー旅行記』などが知られています。

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『ニルスのふしぎな旅』への感想

最後は本作:『ニルスのふしぎな旅』を見た自分の感想です。

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追体験してしまう物語だった

一言でいうと、どこか『追体験してしまうような物語』でした。

自分はニルスのようにイタズラ好きではなかったですが…それでもこの童話で見られたニルスの成長や感情、振る舞いなどに、自然と自分自身を重ねて考えてしまっていたところがあった気がします。

年甲斐もなくハマってしまったということです。笑

またこの童話はニルスが動物の世界の一員となることで、最終的に自然や命の大切さなどに気づくことも描かれています。

そのため、道徳的にも意義ある作品だとも思いました。

時代を問わずに読み継がれている理由もわかる気がします。

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『ニルスのふしぎな旅』あらすじと感想まとめ

童話:『ニルスのふしぎな旅』は、いたずら好きな男の子ニルスの成長物語です。

どこか追体験させられる、そんな魅力ある物語でした。

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参考文献

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