【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】
名作:『風と光と二十の私と』をご紹介させていただきました。
あらすじは全文ふりがな付きです。
一つの参考にして下さいませ。
- 全文ふりがな付きのあらすじ要約
- 作者紹介
- 参考文献
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『風と光と二十の私と』のあらすじ要約
あらすじの要約と作者紹介です。
充ち足りた一年
二十のとき、私は小学校の代用教員*になった。
私は幼稚園のときからサボることを覚え、中学の頃は出席日数の半分はサボっていた。
そんな不良中学生が代用教員になるというのは変な話だが、十八のとき父が死んで借金が残っていたので、働くことになったのだ。
私が代用教員をしたところは、世田谷の下北沢というところで、その頃はまだ竹藪だらけの田舎だった。
本校は世田谷の町役場の隣にあるが、私がいたのは教室が三つしかない分校だった。
私は分校の最上級生である五年生を受け持った。
男女混合の七十名くらいの組であるが、どうも本校で手に負えないのを分校へ押しつけていたのではないかと思う。
子供のうち二十人くらいは、片仮名で自分の名前だけは書けるが、あとはコンニチハ一つ書くことのできない子がいた。
だが、落第したり乱暴をする子は、実は、非常にいい子が多い。
本当に可愛い子供は悪い子供の中にいる。
子供はみんな可愛いものだが、本当の美しい魂は、悪い子供が持っている。
田中という牛乳屋の子供は、朝晩、自分で乳をしぼって、配達をしていた。
一年落第していて、年は他の子供より一つ多い。
腕っぷしが強く、他の子供をいじめたりするのだが、実は非常にいい子供だ。
「先生、オレは字が書けないから叱らないでよ。その代わり、力仕事は何でもするからね」と可愛いことを私に言い、ドブ掃除や力仕事などを自分から引き受けてくれた。
一方、女の子には閉口*した。
五年生ぐらいのマセた女の子の嫉妬深さの対策には、ほとほと困ったものだった。
私は放課後、教員室にいつまでも居残っていることが好きだった。
生徒がいなくなり、他の先生も帰った後、たった一人で物思いに耽っている*。
静寂の中にいると、もう一人の私が話しかけてくるような気がした。
私は、誰しも人は少年から大人になる一期間、大人よりも老成*する時期があるのではないかと考える。
私はその頃、太陽というものに生命を感じていた。
私は青空と光を眺めるだけで、もう幸福であった。
樹々の葉にも、鳥にも、虫にも、そしてあの空を流れる雲にも、私は常に私の心と語り合う親しい命を感じ続けていた。
教員時代の充ち足りた一年間というものは、私の歴史の中で、私自身のことでないような、思い出すたびに嘘のような変に白々しい*気持ちがするのである。
(おわり)
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[用語の説明]
*代用教員:戦前、正式な教員の資格を持たずに働いていた臨時の教員のこと
*耽る:一つの物事に熱中すること
*閉口:手に負えなくて困ること
*老成:年齢の割に大人びていること
*白々しい:嘘がわざとらしく、見え透いていること
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作者:坂口安吾
作者:坂口安吾(1906~1955年)
新潟県出身の小説家。
新潟県の大地主の家に生まれた。
父は県会議長、のちに衆議院議員をつとめ、漢詩*にも通じていた。
(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)
*漢詩:中国の伝統的な詩のこと
中学に進学したが、家庭の複雑さもあって奔放・孤独な日常を送り中退、仏教を学ぼうと1926(昭和元)年に東洋大学哲学科に入学した。
交流のあった芥川龍之介の自殺に衝撃を受け、精神的に不安定となるが、アテネ=フランセで学ぶうちに小説家を志す。
大学卒業後、同人誌を創刊、創作を始めて新進作家となった。
(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)
本作:『風と光と二十の私と』は、当時40歳だった作者が、20歳だった頃の自分を振り返った自伝的作品となっています。
評価
古い道徳観を否定した自由で大胆な作品の数々は、社会に衝撃を与え続けました。
『無頼派』
特に『堕落論』はベストセラーとなり、太宰治らとともに『無頼派』と称されるまでになりました。
(前略)人間が人間本来の姿に戻ることを「堕落」と呼んでベストセラーとなり、太宰治らとともに「無頼派」と呼ばれた。
(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)
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鋭い評論と独特の視点からの文明批評
やがて物心ともに苦しい生活の中で、「突きつめた極点で生きることに向かった時、そこから新しい倫理が発足する」と説くなど、鋭い評論を発表した。
(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)
作品は多彩で、独特の視点からの文明批評も有名である。
(『倫理用語集』182ページ 坂口安吾 より)
『風と光と二十の私と』あらすじまとめ
本作:『風と光と二十の私と』は、作者の人生論が垣間見える作品だったように自分は思います。