【『名作』一覧】童話や文学、戯曲など【海外と日本の有名作品集】
名作:『藪の中』のご紹介です。
あらすじは全文ふりがな付き、かつ現代語訳風で、読み聞かせができるようにまとめています。参考にして下さいませ。
- 全文ふりがな付きの現代語訳風あらすじ要約
- 作者紹介
- 考察:「伝えたいことは何だったのか?」
- 解説
- 参考文献
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『藪の中』のあらすじを簡単に要約【現代語訳風】
まずは考察の前提となるあらすじと作者紹介です。
物語:食い違う証言
藪の中から男の死体が見つかった。
検非違使*の前で、目撃者や当事者たちが、一人ずつ証言をした。
木樵りの物語
木樵り(第一発見者)の物語
「裏山の杉を切りに入った藪の中に、あの死体があったのでございます。死体は仰向けに倒れており、胸元には突き傷があり、辺りは踏み荒らされておりました」
旅法師の物語
旅法師(僧)の物語
「死体の男とは、確かに昨日会っております。男は馬に乗った女といっしょに歩いておりました。女の顔はわかりません。男は太刀を帯びて弓矢も携えておりました」
放免の物語
放免(検非違使の下部*)の物語
「私が捕らえた男は多襄丸という名高い盗人でございます。男は馬から落ちたのでしょう。昨日、石橋の上で、うんうん唸っておりました。馬は少し先におりました」
媼の物語
媼(死んだ男の妻の母)の物語
「あの死体は、私の娘の夫でございます。名は金沢の武弘、二十六歳でございました。娘の名は真砂、十九歳でございます。どうか行方不明の娘を見つけて下さいまし」
多襄丸の白状
多襄丸の白状
「あの男を殺したのは私です。昨日、あの夫婦と出会い、女を奪おうと決心しました。私は夫婦に宝が埋めてあると嘘をつき、山中の藪の中へと連れ込んで、男を縄で縛って女を手に入れました。その後、女が、あなたか夫かどちらか死んでくれとすがりついたので、私は男の縄を解いて対決し、私の太刀が男の胸を貫きました。ところが、気づいたら女は逃げてしまっていました。私は女が助けを呼ぶために藪をくぐって逃げたのかもしれないと思ったので、男から太刀や弓矢を奪って都へ向かいました」
真砂の懺悔
真砂(死んだ男の妻)の懺悔
「男は、私に乱暴した後、縛られた夫を眺めて嘲るように笑い、夫に走り寄ろうとする私を蹴り倒しました。その時、私は夫が蔑んだ冷たい目で私のことを見ているのに気づき、何かを叫んで気を失ってしまいました。気がついたときには、男はもうどこにもいませんでした。私は、夫といっしょに死のうと思い、足元に落ちていた小刀で夫を刺し殺し、自分も後を追おうとしましたが、死に切れませんでした」
巫女の口を借りた死霊の物語
巫女の口を借りた死霊(死んだ男の霊)の物語
「盗人はおれの妻を口説き、自分の妻になれと言った。そして妻はそれを受け入れた。しかもそれだけではない。妻は盗人に、おれのことを殺してくださいと何度も叫び立てたのだ。盗人は、この女をどうするかとおれに聞いてきた。おれは答えをためらった。すると妻は何かを叫んで逃走し、盗人も、おれの縄を切って走り去っていった。おれは、目の前に落ちていた小刀で自分の胸を刺した。その後、誰かがそっと胸の小刀を抜いたが、おれは意識を失ってしまった」
(おわり)
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[用語の説明]
*検非違使:京都の警察業務を担当していた役職のこと
*下部:検非違使に使われていた身分の低い者のこと
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作者:芥川龍之介
作者:芥川龍之介(1892~1927年)
生まれは現在の東京都中央区の京橋。新原敏三の長男として生まれました。
辰の年、辰の月、辰の日、辰の時刻に生まれたので、龍之介(本名)と名づけられた。
(『学習人物事典』6ページ より)
しかし、生後まもなく母親が発狂したため、母親の実家である芥川家で育てられ、のち正式に芥川家の養子となった。
(『学習人物事典』6ページ より)
病弱で神経質な読書好きの少年であった。
(『倫理用語集』174ページ 芥川龍之介 より)
府立三中(現在の東京都立両国高等学校)を経て、1910年(明治43年)に第一高等学校に入学。
学業成績が良かった芥川は、無試験で入学することができました。
その後、1913年(大正2年)には、東京帝国大学(現在の東京大学の前身)英文科に入学。
この2年後には『羅生門』を発表していますが、反響はありませんでした。
しかし、その作家活動の最中、自身の作品:『鼻』を夏目漱石に認められたことにより、新進作家と見なされるようになります。
大学生のとき、『今昔物語集』、『宇治拾遺物語』といった日本の古典を題材にした短編小説「鼻」を発表。
この作品が夏目漱石に絶賛され、文壇で注目されるようになった。
(『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』223ページ 芥川龍之介 より)
大学卒業後は横須賀の海軍機関学校の教師や大阪毎日新聞社を経た後、1918年(大正7年)頃から本格的な作家活動を始めています。
作品:その他の代表作の一部
評価:『芥川賞』の制定
『芥川賞』は、芥川龍之介の功績を記念してつくられた文学賞です。
新人作家に与えられる文学賞である「芥川賞」の由来となった人物である。
(『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』223ページ 芥川龍之介 より)
作風:人間のエゴイズムや芸術至上主義などを鋭く描いた
『羅生門』『鼻』『芋粥』『地獄変』などの初期の作品は、『今昔物語』や『宇治拾遺物語』といった古典を材料として、これらの物語に登場する人物の心理にメスを入れ、人間のエゴイズム(自分だけの幸福や利益を追いもとめる考え方や態度)や、芸術至上主義(芸術を自分にとって最上のものと考え、宗教や道徳・政治などの上におく考えや態度)などをするどくえがいたものが多い。
(『学習人物事典』6ページ より)
『今昔物語集』という古典に取材しつつも、人間の本質と近代人の心理を追求するものであった。
(『倫理用語集』174ページ 芥川龍之介 より)
人物:「この世で信じられるものは自分の神経だけ」
龍之介は、この世で信じられるものは自分の神経だけだとくり返し書いているが、そのようなとぎすまされた、するどい感性と知性で『手巾』『蜜柑』『トロッコ』などの作品を書き、やがて大正時代の代表的な短編小説家となった。
(『学習人物事典』6ページ より)
特徴:短編小説が多かった
なお、繰り返す通り、芥川龍之介の作品には、短編小説が多いことが特徴でもありました。
(前略)やがて大正時代の代表的な短編小説家となった。
(『学習人物事典』6ページ より)
晩年:暗く苦しげな作風への変化
(前略)1919(大正8)年頃から「疲労と倦怠」の中で、不眠・神経衰弱が進行し(後略)
(『倫理用語集』174ページ 芥川龍之介 より)
(前略)1925(大正14)年ごろから神経衰弱や胃腸病になやみ、また、そのころさかんになってきたプロレタリア文学に、新しい時代の新しい芸術を感じとっていた。
(『学習人物事典』6、7ページ より)
(前略)26(大正15)年には、創作上の苦しみもあって、友人に自殺の決意を語っている。
(『倫理用語集』174ページ 芥川龍之介 より)
そして、それに自分の芸術がついていけないのではないかという不安から、かれの作品はしだいに暗く苦しげなものとなり、『玄鶴山房』『河童』などのけっ作を発表したものの、1927(昭和2)年7月、田端(いまは北区田端)の自宅で睡眠薬自殺をとげた。
(『学習人物事典』7ページ より)
「唯ぼんやりした不安」
「唯ぼんやりした不安」という遺書の言葉は、大きな不安に向かう時代を象徴するものとして、知識人に衝撃を与えた。
(『倫理用語集』174ページ 芥川龍之介 より)
「『藪の中』が伝えたいことは何だったのか?」【考察】
では、「本作:『藪の中』が伝えたいことは何だったのでしょうか?」
参考文献を元に、考察しました。
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注:ここからの情報は自分独自の考察に過ぎません。
間違っていないとは言い切れませんので、あくまで一つの参考にして下さいませ。
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『人間のエゴイズム』
結論からいうと、『人間のエゴイズム』です。
(前略)『今昔物語』や『宇治拾遺物語』といった古典を材料として、これらの物語に登場する人物の心理にメスを入れ、人間のエゴイズム(自分だけの幸福や利益を追いもとめる考え方や態度)や、芸術至上主義(芸術を自分にとって最上のものと考え、宗教や道徳・政治などの上におく考えや態度)などをするどくえがいたものが多い。
(『学習人物事典』6ページ 芥川 龍之介 より)
*便宜上、以下より『エゴイズム』のことを『エゴ』と表記させていただきます
本作の作者はこの人間のエゴを作品に描くことが多く、代表作だと『羅生門』や『蜘蛛の糸』、『杜子春』などがそれに当たります。
そしてそのことは本作でも例外ではない…と自分は考察しました。
その理由が、”登場人物たちの証言の矛盾”にあります。
というのも、まず前提として本作はそのあらすじから犯人を特定することがとても難しくなっていますが、それは登場人物たちの証言が矛盾していることにあります。
では、そもそもの話、「なぜ、証言が矛盾しているのでしょうか?」
それは登場人物の誰かが、「(なんとかこの場を乗り切りたい…)」という”エゴ”により、嘘の証言をしているからだと考えられます。
よって以上のことが、本作が伝えたかったことが、犯人は誰なのかということではなく、その背景に隠されたエゴであったと自分が考察した理由です。
『藪の中』の解説【2つ】
最後は本作:『藪の中』にまつわる解説です。2つあります。
<1>『真相は藪の中』の語源となった
まず本作は『真相は藪の中』という言葉が生まれた語源となった作品です。
【真相は藪の中とは?】
物事の真実が不明であることを意味する言葉のこと
なお、その背景は言うまでもなく、本作の犯人が不明であることに由来しています。
<2>犯人は不明
そして繰り返しになりますが、本作の犯人は不明です。
とはいえ、自分が思うに、登場人物のなかで矛盾点が最も目立つのは、真砂であったようには思います。
ですが、『真相は藪の中』です(言いたいだけ)
【『藪の中』が伝えたいこと】あらすじを考察【現代語訳風で簡単に要約】まとめ
本作:『藪の中』は、登場人物たちの矛盾する証言から、人間心理の一端が描かれていました。
そしてその一端は人間のエゴイズムであったように自分は考察しました。